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元カノ -2-
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サヤカさんと興本は、俺が興本のことを知る前から付き合っていた。
どうして別れることになったのか、その理由を聞いたことはない。
それでも確かなことは、あれだけ節操なしの興本が特定の人と長い間恋人という名の関係を続けたのは、俺が知る限りサヤカさんだけだったということだ。
月曜日の宗田は朝からとても機嫌が良いらしい。
昨日の糸田とのデートは成功したと言っていいだろう。
これはバッティングセンターで別れた後のことも聞いてみるべきか。
少し悩んで、俺は宗田の方へと体を向けた。
「おはよう」
とりあえずは挨拶、と教室に入ってきた宗田に声をかける。席に座った俺を見下ろして宗田は爽やかな笑顔を向けた。
「おう! 井瀬、昨日はサンキューな!」
「あの後糸田とどこか行った?」
「ファミレスで飯食って帰った。最初は緊張したんだけど、体動かした後だったから朝よりは全然喋れたと思うし、まじで井瀬と興本には感謝してる」
「そっか、それは良かった」
興本が気まぐれで参加したものの、結果的には良い方へと転がったようでホッとした。
「井瀬もあの後興本とやったのか」
朝から下世話な話題を小声ながらも聞いてきたので、思わず喉を詰まらせた。それでも宗田の興味津々な表情は健全な男子高校生だなぁとどこか他人事の様に思った。
「そんなこと教えるかよ」
「今更だろー。今後の参考に」
「何の参考にするんだ」
「ナニかの参考にはなるだろー」
「なるかよ」
そんなくだらない掛け合いを続けている内に担任が入って来て朝のホームルームが始まった。
配られたプリントを見て、そう言えばそろそろ文化祭と体育祭を考える時期かと知らされる。
「今まで1年、2年と文化祭の準備は夏休みにもできていたが、3年は受験もあるから早めに日程を知らせておく。それから3年は夏休みが2週間短くなってるから、登校日間違えるなよ」
担任に言われてプリントを裏返せば、7月、8月の月間スケジュールが載っていた。担任の言うように、今まで見てきたスケジュールとはだいぶ違い、特に大きいのは授業数だ。
通常夏休みは7月下旬から8月いっぱいまでだったが、今年は夏期講習が7月下旬から始まり、全員登校の授業が8月後半から始まっている。
講習は希望者だけということらしいが、受験対策と書かれていれば、進路にもよるだろうがほぼほぼ強制参加のようなものだ。
それに加え、期末テストの補習と補講も入っているから、ざっと目を通しても力を入れて文化祭の準備や体育祭の練習を出来る余裕はなさそうだった。
それはクラスメイトの誰もが思った感想で、すぐにどこからともなくブーイングや不満が漏れてきた。
しかしそんな反応は予想内だったらしい担任は意に介することもなくさっさとホームルームを終わらせて教室を出ていってしまった。
「あーまじで受験生って感じするわ、これ見てると」
隣の席の宗田が項垂れる。
「そう言えば去年の3年も、文化祭は展示物ばっかだったよな。つまんねーとか思ってたけど、これ見ると納得って感じする」
後ろの席からもそんな声が聞こえてくる。そう言われて思い返せば、確かに1年、2年は飲食店や劇やと色々見て回ったが、3年のクラスは記憶にない。記憶にないということは興味を引かれる催し物はしていなかったということだろう。つまり、興味を引かせるようなものを作る時間も考える暇もなかったということだ。
「部活の先輩は去年ダンスやってたけど、それってかなりすごくね? ダンスなんてそれこそ練習大変そうだし」
「お前って何部だっけ」
「サッカー部だよ。宗田に忘れられてるとか、傷つくんですけどー」
不貞腐れたように軽く拳で肩を叩かれた宗田は、「悪い悪い」と笑ってそれを受け流す。
それにしても。そうか、文化祭か。
この学校の文化祭は9月の土曜日、日曜日の二日間で行われる。一日目は生徒と教師だけの参加だが、二日目の日曜日は一般参加も可能だ。
ちなみに体育祭は文化祭の終わった後、10月の平日に行われる。
文化祭では予め決められた人数分のチケットが配られ、そのチケットを持っていれば親や兄弟、他校の生徒も入れるようになっている。チケットには渡した生徒名と呼ばれた人の名前が書かれているので、誰が呼んだのか入口で確認でき、不審者の侵入対策となっているらしい。
一昨年は友人として興本を呼んだが、当然の様にうちの女子生徒や一般参加で来ていた他の女性客からナンパされまくっていた。危うく学校内で致そうとしていたのを発見したので、昨年は呼ばなかった。
今年は何か言われるだろうか、と思い返してため息が出る。
「2組は何するんだろう。昼休みにでも聞いてみるか」
ふと隣で宗田が呟いたのが聞こえ、過去の記憶から意識が戻った。
「そうだな」
今年はあまり楽しめないかもな、と再びスケジュール表を見て宗田は言うが、どことなく顔が笑っていたのは俺の見間違いではないだろう。
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