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元カノ -5-
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期末試験も近づいてきた土曜日。学校も休みの晴れた日に、俺は予備校の事前模試を受けに朝から家を出た。まだ太陽が昇りきらない時間帯にもかかわらず、外は眩しいくらいの日差しが照っていた。
これから通う予備校は、家を起点に学校から反対方向だ。どちらかと言えば興本の通う高校に近い。電車の沿線で言えば渡合達と出会ったBarへ行く途中にある。
通っていればもしかしたら興本達とすれ違うだろうか。そんなありもしない妄想をしながら少し大通りへと歩く。改札を出てからファッションビルはなく、角を曲がればすぐオフィス街だ。
オフィスビルに挟まれた一角に目指していた建物はあった。自動ドアを潜り、受付へ向かう。
事務のお姉さんから簡単な説明を受けて、案内された教室へと足を進める。
手渡された案内図を見ればエレベータもあるようだったが、その前に見つけた階段で3階まで上った。
指定された大教室へ入れば既に半分ほどの席が埋まってた。
席には番号札が貼られており、それは事務のお姉さんが案内図と一緒に渡してくれた受付番号と対応している。
ここで午前中に2科目、昼休憩を挟んで午後に3科目の試験が行われる。
結果は郵送で知らされるらしく、各教科の分析表もくれるらしい。それをもとに希望教科のクラス分けがされると請求した資料に書かれていた。
これで何が変わるわけでもなく、自分の実力が測られるだけだからと緊張もない。
自分の席に着くと、時間が来るまでの暇つぶしに、気休めに持ってきた参考書をぱらぱらと眺めることにした。
長時間の試験が終わり、予備校を後にする。
ほぼ5時間机に向かいっぱなしと集中力の維持に心身ともに疲労感が募っているのが分かる。
駅までの道を歩きながら軽く首を回すと、良い感じに筋が伸びて痛みを感じた。
と、不意に腕を掴まれた。
「ねえねえ、井瀬くんだよね!?」
急に腕を掴まれたことにまず驚き、そして女の子の声で自分の名前を呼ばれたことに心臓が飛び上がりそうになった。
振り向けばそこには明るい茶髪にばっちりフルメイク、バサバサと音がしそうな濃いツケマをつけた女の子がこちらを見上げている。ギャルの知り合いはいないはずなのに、その子は可愛らしく大きく縁取りされた目を俺に向けていた。
「え…と…?」
「えっ、井瀬くんだよね! 違う? 絶対そうでしょ! サリナこう見えて人の顔覚えるの得意なんだよ!」
自分のことをサリナと呼んだ女の子はキラキラに装飾された長い爪を自分の方に向けて言った。
「…サリナ、さん?」
「えーうそー覚えてないの? ショックなんだけどー」
「ごめんね…」
「んーもう。まあ会ったの一回だけだし、すぐに匠真と帰っちゃったし、しょうがないかー。でもここで偶然会えたのも運命だし、今度はちゃんと覚えてね!」
弾丸の様に喋るサリナさんから興本の名前が出てきて、そこでおぼろげながら思い出した。興本に連れられて行ったBarで渡合達と一緒に居た女の子だ。
「あっ、華高の?」
そういえば見た目はがっつりギャルなのに通っている高校は私立のお嬢様学校で驚いた記憶がある。
俺が思い出すとサリナさんは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「思い出した? 良かったあ! ねえねえ、井瀬くんは今日どうしたの?」
「予備校の帰りだよ。サリナさんは?」
「サリナは暇だからブラブラしようと思ってたんだぁ。帰りってことは今からは予定無い? 良かったらちょっと喋ろぉ」
サリナさんはさりげなく俺の腕を取って歩き出す。まだ返事はしていなかったけど、無理矢理腕を振りほどくこともできずに、俺はそのまま駅前にあるコーヒーショップへと連れて行かれた。
「井瀬くん、健吾と優とはたまに会ってるんでしょー? サリナだけハミってて超寂しかったんだけどぉ」
注文したカフェラテを手に席に着くなり、サリナさんは頬を膨らませる。女の子と二人でカフェに入るのは初めてで、柄にもなくドキドキとする。
そしてまたもや記憶にない名前が出てきて混乱する。
「ケンゴとユウって?」
「え? サリナと一緒に居たでしょ? あれ? 匠真と3人でよく井瀬のくんの話してるから、てっきりサリナだけ遊んでないって思ってたんだけど」
サリナさんは不思議そうにコテンと首を傾げた。
話の内容から読み解くに、おそらく渡合と十河のことだろう。二人の名前をそう言えば知らなかったと気付いた。
「ああ、ううん。興本繋がりで会ってるだけだよ」
合点がいって咄嗟に首を振る。
「ていうか俺の話出てるの?」
「そうそう。匠真の周りには居ないタイプだし、珍しいからかなぁ。ねぇ、サリナとも連絡先交換しよぉ」
そんなことより、と携帯を取り出すサリナさんに、急かされて俺も携帯を鞄から出す。何気に母さん以外で異性の人のアドレスが初めて入った。
「やったー! これでサリナとも会ってくれるよね!」
「でもこれから受験あるし、あんまり時間取れないかも」
「そう言えば予備校とか言ってたもんねぇ」
「うん。ていうかサリナさんも同じ学年だよね」
のほほんとカフェラテを飲むサリナさんは見た目こんな感じだけれど、通っている高校からすると頭も良いはずなのだ。状況は俺と変わらないと思うのだけれど。
「そだよー。てかさー井瀬くん、サリナのこと”さん”付けで呼ぶのやめてね。慣れなくて鳥肌立っちゃったぁ」
見て見て、と肩まで露出した服を着ているサリナさんは、可笑しそうにその細い腕を見せつけてくる。確かに最近は夏日が続いているからサリナさんの恰好もおかしくはないが、少しこの店は冷房が効きすぎているかもしれない。
「女の子に呼び捨てって慣れてなくて。寒いならこれ着てなよ」
だからごめんね、と腰を上げて羽織っていたシャツをサリナさんの肩に被せる。
サリナさんは一瞬キョトンとしたが、次の瞬間にはなぜか爆笑し出して、俺は更に戸惑った。
「やばい! 井瀬くん超ウケるー!」
それでも俺のシャツを肩に掛けたままサリナさんが「ありがとう」と笑ってくれたので、俺はホッとして、立ち上がっていた腰を下ろすことができた。
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