アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
2-ⅲ
-
「君は一体どんな体をしているんだい?」
「すまない」
乙常は数日前と同じ質問を眞戸にされながら、彼の機嫌をどうにかして取ろうとしていた。
「乙常くん。僕は君に謝罪して欲しいんじゃなくて、君の体の不思議について聞いているんだ」
「あぁ。そうだな…」
「なぜ君の体は温かいか、それと片手だけが冷たいのはなぜか。それを教えて欲しいんだよ、僕は」
乙常はバツが悪そうに口ごもるが、近くで見ていた靘耶は面白そうに二人のやり取りを見ていた。
乙常がチラチラと目線で靘耶に助けを求めているが、彼は分かっていて口を出さなかった。
「片手だけ冷たいのはポケットに入れていなかったから」
「煙草かい?」
「まぁ、そんなところだ」
「ほぅ、それで?」
体が温かいのはなぜか、それは正直乙常自身にも分からない。自分の体温が人より高いと思った事も無いし、言われた事もない。そもそも好んで密着してくる者がいなかった。
「何で君の体は温かいんだい?」
乙常は唸る。本当に分からないし、生きているからとしか答えようが無いのだ。
「マスター」
靘耶が仕事中の呼び名で、彼を呼ぶ。少々意地悪そうな顔を見せた靘耶に、嫌な予感がした。
「何だい?靘耶くん」
「人に何故温かいか聞くのは、少し不躾なことかと思いますよ。…特に乙常さんには」
「えっと…つまり?」
「もし乙常さんが、子供体温だということを気にしていたら、可哀想じゃないですか」
内心そんな訳あるかと突っ込みたかったが、今はそれ以上の答えを見つけられそうにないし、眞戸がそれで妙に納得している様子を見ると、もうそれでも良いかとさえ思えた。
満足したように頷いた眞戸は、乙常の前に珈琲ではなく紅茶を置いた。
「これ、君からもらった紅茶なんだ。僕と靘耶くんは先にご馳走になったからね」
眞戸はくすぐったそうに、肩を竦めて微笑む。
「そうか、口には合ったか?」
乙常がカップを持ち上げて二人に目を向けると、眞戸がわざとらしく目を逸らし、それを真似るように靘耶も横を向いた。自分で確認しろということかと、乙常は自身の買ってきた紅茶を口にいれる。店員の言っていた通り、口当たりの良いお茶だった。
「うん、美味いな」
「そうだろう?靘耶くんも気に入ったみたいだし、何より僕も気に入ったんだ」
眞戸の嬉しそうな顔を見ると、買って良かったと思う。
今まで長い付き合いだが、乙常が紅茶を渡したのはこれが初めてだった。前に何かで見た『ワイン好きにワインを渡すのは危ない』という言葉を覚えていた為、珈琲や紅茶は避けていたのだが、家の近くに紅茶の専門店ができたので少し挑戦してみようと思ったのだ。
よほど気に入ったらしく、この紅茶をメニューに入れようか悩んでいると言った眞戸に、これは季節もので期間限定だと伝えると肩を落としていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
7 / 84