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6.9-ⅱ
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ほとんどの客が帰って、店にグレイだけが残っていた。帰ろうとしたら雨が降ってきたからだ。
眞戸はというと、一人がけのソファーに足を組んで座り、足から肩まで自分専用の大きめのブランケットをかけて寝ている。
一応グレイは客として来ているのに、そんな事御構い無しに彼は寝ている。無防備にも程があると思うのだが。
グレイはぼんやりとその姿を見て、自分の眠気も誘われているような、そんな気がした。大きく伸びて、彼が起きるのを待とうと思ったのだが、先日の一件で彼がなかなか目を覚まさない事は分かっている。
あの日、朝方帰ってきた眞戸は、今のように一人がけのソファーで頭から毛布を被って寝ていた。グレイは先に起きて棚の本を読んだりしながら過ごしたのだが、彼が起きたのは時計の針が正午を回った頃だったのだ。
グレイは眞戸を起こすのも気が進まず、この眠気にも逆らえる気がしなかったので、机に突っ伏して素直にその欲に従おうとした。
…したのだが、タイミング悪く店のドアが開いて、スーツを着た強面の男が店内に入ってきた。
「あ…、今は……」
「ん?あぁ、気にせずにどうぞ。いつもの事ですから」
男はカウンター席に鞄を置いて、眞戸の寝ている椅子へと真っ直ぐ進んでいった。
叩き起こすのだろうかと、何故かグレイが冷や冷やしながら身構えてしまったのだが、男は眞戸の頭を撫でただけだった。
「眞戸、来たぞ」
男は体勢を低くしてくしゃくしゃと眞戸の髪をかき回しながら、落ち着いた声で彼を呼んだ。その横顔はとても優しく、柔らかい。見ていてむず痒くなるような空気が、一瞬にして彼の周りに満ちた。
「眞戸。珈琲、淹れてくれるんだろ」
ほら起きろ、と続いた声は酷く甘かった。
グレイは思わず目を背けていた。それも仕方のないことかもしれないのだが、眞戸が無防備ならこの男は恥ずかしい。感情が全て漏れてしまっているのだ。二人がいかがわしい事をしているわけでは無いのに、グレイは見てはいけないと思ってしまった。
正直、早く眞戸に起きて欲しいと思いながら、その溶けてしまいそうな空気の中で、グレイは呼吸を繰り返している。胸焼けを起こしてしまいそうだ。
「……ん、乙常くん……いらっしゃい」
眞戸は目を擦りながら片手でグッと伸びをすると、毛布をソファーにかけてカウンターへと戻ってきた。
「ライアンさん、すいません寝てしまって」
退屈だったでしょう?と聞く眞戸に、グレイは首を横に振った。
「いいえ、僕が挨拶して帰ろうと思っていただけですから、気にしませんよ」
「それは…なおさら申し訳ない。僕が起きないと帰れなかったわけですから」
眞戸は心底申し訳なさそうに項垂れると、グレイは慌てて胸の前で手を振った。帰ることもできたのに、自分が好きで残っていただけなのだから。
「良いんです。…それでは、僕は失礼しますね。引越しの準備もありますし」
「そうですか…。また行く前にいらしてください」
グレイは笑顔で会釈すると、店のベルを鳴らして出て行った。
ずっと店の中にいたら、心が窒息してしまいそうだったのだ。二人が上手くいくことを内心願いながら、雨上がりの湿った匂いを、胸いっぱいに吸い込んだ。
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