アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
13.5-ⅱ
-
外食しようと言ったまではよかった。
しかし、ここら辺のことは全くと言っていい程分からない乙常は、エレベーターの中でどうしたものかと頭を悩ませていた。
眞戸の借りている部屋は32階だ。それなりにこの少し広い箱の中に居続ける時間はある。
「何が食いたい?」
乙常は閉ざされたドアを見たまま尋ねた。
場所ではなくもので絞ればいいと、当たり前の事を考えた。この時の乙常にはそれが直ぐに思い浮かばなかったのだろう。
しかし、そんな乙常の悩んだ末の言葉に、眞戸が求められた答えの斜め上をいくこともよくあることだった。
「君が何か作ってくれるの?」
勢いよく眞戸の方を向く。彼は少しだけ驚いたのか、何度か瞬きをして乙常を見つめ返した。
「俺…?」
「うん」
言われて初めて他の選択肢があるのだと気付いた。
思えば眞戸を家に誘ったことは一度もない。良いきっかけだから誘ってみようかと、乙常は数秒の間に結論を出した。
「うち、来るか?」
「いいのかい?」
「ここから結構距離はあるぞ」
「かまわないよ」
「じゃあ何か買って帰るか」
乙常が先ほどと同じ質問を再びすると同時にドアが開き、眞戸はそれに買いながら考えると答えた。彼の横顔からは色々な感情が見て取れた。喜び、期待、愛情。こそばゆい程に気持ちが溢れている。
幸せは感染するものなのだと、乙常はしみじみと思った。
しかしそれでも、どことなくグッタリとして見える眞戸に、常に注意の目を向けることは続けた。
会えずにいた期間は、眞戸にとっても相当こたえていた。下手したら乙常よりも。食事を摂らずとも平気だったのは、そのストレス故かもしれない。
胃薬を持って来るべきだっただろうかと、少しだけぼぅっとした頭で思った。
乙常の顔を見てから、溜まっていたものが次々に出てきている。一瞬、ほんの少し気を緩めただけでフラついてしまった。もちろん眞戸に心配そうな目を向けていた彼がそれを見逃すはずもなく、眞戸は肩を抱かれるようにして支えられたのだった。
「大丈夫……じゃないな」
「そんなことはない。少しフラついただけだ」
「まったく…少しは自分の体を労れ」
「はは、怒られてしまった」
「そういうつもりじゃない。我慢するなと言っているんだ。隠すような間柄じゃないだろ」
乙常はそう言うと、ホテルの正面に停まっていたタクシーに近寄り、行き先を告げて後部座席に二人で乗り込んだ。
とは言っても、歩いて行くものだと思っていた眞戸は戸惑っていた。しかし、乙常に押し切られる形で大人しく乗ったのだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
65 / 84