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13.5‐ⅲ
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ドアを閉めて直ぐ、車は動き出した。
と同時に、眞戸の頭を自分の肩へと引き寄せる乙常。それが当然であるかのように自然な動きだった。
「あの、乙常くん」
「ん?」
「これはその、重いだろう?」
「別に、どうってことない」
「いや、それでも…….」
眞戸は申し訳ないと続けた。乙常はわざとらしくため息をひとつこぼすと、ばーか、と、呆れたように声を出した。
「こういう時は素直に甘えろ。その方が可愛げがあるぞ」
「今の僕は可愛げが無い?」
「あぁ」
「可愛い方が好きかい?」
「そうだな」
「では素直に甘えさせていただこう」
眞戸は頬を乙常の肩に擦り寄せると、君の匂いだと消え入りそうな声で呟いた。
それから直ぐに力の抜けた眞戸。
馴染みの場所でもなければ気を許せる人もいない生活。そんな中で安心して眠れることができなかった。
乙常は眞戸にとって安定剤のようなもの。何の前触れもなく与えられたそれの効力は凄まじいものだったのだろう。
乙常は自分の直ぐ横で寝息を立てる眞戸の肩を、複雑な気持ちで抱いていた。
窓の外は青に近い紫に変わっている。夏の日照時間は長いが、そのぶん暗くなる時はほんの数十分で暗くなるような気がする。潔く暮れていくとでもいえばいいだろうか。
この調子だと、自宅に着くのは星がよく見える程暗くなった頃だろう。着いたら風呂を沸かして、有り合わせで何か作ろう。それから彼を寝かせてやろうと、家に着くまで何度もシュミレーションを繰り返し、冷蔵庫に何が残っていたかを頑張って思い出していたのだった。
眞戸は着くまで一度も目を覚まさなかった。それだけではなく、着いてもなかなか目を覚まさないものだから、乙常が抱き上げて一度外に出したのだ。それから彼は直ぐに目を覚まし何度も謝って、乙常はそんな眞戸が可笑しくてしばらく笑っていた。
眞戸がその後少しばかり不貞腐れたのは言うまでもない。
いつもと違う場所だと感じたのは、自分が強い彼の匂いに包まれていたからだ。視界は薄暗く、懐かしい自分の部屋を思い出した。
温かい。これが彼の体温だということくらい、直ぐにわかった。
居心地が良くて、喉の奥がキュッと痛くなる。自分はこんなにも弱い人間だっただろうかと、眞戸は目から流れ出る温かいものを感じながら思った。
昨夜のことはなんとなくだが覚えている。
彼の作った夕飯を食べた。味噌汁に魚に白米という朝ご飯のようなメニューだったが、眞戸の疲弊しきった胃には少しばかり優しかった。
ペロリと完食した頃、風呂に入れと言われた。
君も一緒に入るかと聞いたら、顔を真っ赤にさせてまだ早いと彼は首を振った。その姿がまた可笑しくて、しばらく思い出しては笑ったのを覚えている。
結局一人で入ったのだが、湯船に浸かるなんて温泉以来だっただろうか。気持ちが良かった。
風呂を上がってから先はよく覚えていないが、彼がまたこうして抱きしめて寝てくれているのだから、自分が強請ったのだろう。
それでも、彼の腕の中で目を覚ませることは嬉しい。
まだ起きないでくれと、乙常の胸に額を押し付けて、涙を隠すようにまた眠りについた。
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