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14‐ⅱ
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乙常はというと、冷蔵庫から冷たい麦茶を取り出して二つのコップに注いでいる。
眞戸が少しばかりぎこちなく動いているのは横目で見て分かっていた。それが自分の格好のせいだとは全く気付いていないが、意識しているのかもしれないとは思っている。
眞戸は変な所で大胆だ。その反面こうして分かり易く純情さを見せるときもある。見ていて飽きないが、どちらでもない時の方が圧倒的に多く、その時はすべて吹っ切れたような、そもそも付き合っていることを忘れそうになる接し方をする。
乙常は別にそれでもいいと思っている。わざわざ恋人だからと、そうかしこまっていては窮屈だろう。
乙常は二つのコップを持って、キッチンからリビングへ出る。
乙常の部屋は少し広めの1LKだ。玄関を入るとすぐ廊下があり、右にトイレ、左に洗面所と風呂場、そして正面にすりガラスの扉を挟んでキッチンとリビング。キッチンはカウンターのように開けていて、リビングから寝室へと入るドアがある。
乙常はこの造りを結構気に入っていた。
眞戸が部屋から出てくるのを、ソファーに座って待つ。目の前のローテーブルに置いた二つのコップは、じんわりと汗をかいてきた。
外はもう日が落ちて、青を濃紺へと変え始めている。七月下旬に比べたら、大分陽が沈むのが早くなった方だ。
ぬるい風がベランダから入ってくる。
こんなことなら扇風機を買っておけばよかったと、去年御釈迦にした扇風機を頭の片隅に思った。
冷房は寝室にだけある。寝苦しいのはさすがに嫌だとつけてもらった。しかし、いくら暑がりでも、リビングにまでつけるわけにもいかず、夕方は自然の風やうちわで体を慣れさせているのだ。
乙常はチラリと斜め前にある寝室に目を向ける。ドアは開け放たれているが眞戸のいるであろう場所はちょうど見えない。
待っている間何もしないのももったいないと思い、服を着ようと立ち上がって寝室に向かう。入って眞戸を見ると、トランクの中を何やらゴソゴソと漁っている。
「どうした?」
「あ、あぁ…えっと、Tシャツを…貸してもらえないだろうか」
「Tシャツ?」
「うん」
眞戸は目を泳がせながら、洗い替えを汚してしまったんだと謝った。
彼の側には茶色く染みのついた服が落ちている。
乙常は謝らなくていいと、クローゼットの引き出しから適当に二枚を取り出して、そのうちの一枚を眞戸に手渡した。
「これでいいか」
「ありがとう」
「気にするな。それより、どうしたんだ?珈琲のような匂いがするが」
「よく分かったね」
眞戸は汚れたTシャツを手に、人とぶつかって溢したと言った。彼は今、例のホテルで一時的に働いているらしい。あの部屋を借りる時、それなら代わりに何か手伝わせてくれと頼んだら、レストランでウエイターをして欲しいと言われたそうだ。
元々気品のある出で立ちをしている眞戸が、ウエイターの制服を着ていたら、きっと様になるだろう。
しかし、制服があるというのに、Tシャツがそんなにも汚れることが有るのだろうか。純粋に疑問に思った。
これは聞いてはいけない事なのだろうか。触れてはならない事なのだろうかと、少なからず不安は有るけれど、僅かな事でも彼のことを知れるのなら、それが根本的な事を知ることと無関係であったとしても、それでも良い。きっと、大丈夫だと、自分に言い聞かせた。
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