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15-ⅰ
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リニューアルオープン前日、前夜祭のような感覚で店を開けた。連絡先を知る常連客には一週間前に連絡をし、その日を迎えたのだ。
利根やデュランを始めとする顔馴染みの常連客数人に加え、改装中一時的に世話になったホテルのオーナーである坂間桐彦(さかまきりひこ)、エスプレッソマシーンを譲ってくれた眞戸の師匠、日守叶瀬(ひもりかなせ)。
それから、どこからか改装を聞きつけてやってきたパティシエの檜原寛純(かいばらよしずみ)も加わり、大いに盛り上がった。
檜原が差し入れにと持ってきたクレームブリュレは人気があって、流石は人気パティシエだと感心したものである。
改装後のPanduleは眞戸の部屋と個室が削られ、ユニットバスはトイレのみになり、二人がけのテーブル席が二つ、一人がけの席も二つ増え、それでも入る程広くなった。カウンター席は他よりも一段高い所にある。少しだけお洒落だろうと、眞戸は笑っていた。
きっと明日の開店初日も、こうして何事もなく平和に、普通に終わるのだと思っていたのだ。
しかし、そのような普通程、案外簡単に崩れるものだ。それがこの世の理というものなのだ。
「ここは僕の店だろうか」
眞戸は至って普通の、いつも通りの口調で言う。
靘耶は、そんな眞戸の横で、彼の目線の先を見つめる。そこには、『満席』『数分待ち』という、今まで無縁だった光景があり、その状況を招いた張本人は今目の前にいるのだ。
「僕は今日も、ゆっくりのんびり一日を終えるのだと思っていたんですよね。しかし…なぜこうなったのか、説明して欲しいなぁ。…ね、サカマキさん?」
眞戸は子供に向けるような優しい目で、カウンター席に座る坂間に微笑みかける。他の人が見たらきっと綺麗だと思うであろうその顔も、坂間にとっては少々恐怖心を煽るものだ。
坂間はバツが悪そうに口ごもる。目は泳いでいるし、そわそわと落ち着きがない。
「昨日その…ブログで書いてしまって……」
「貴方のブログ、閲覧数分かってます?」
「はい…」
「責任、取ってもらいますからね?」
坂間は三十五歳にしてはかなりの童顔で、盛大に渋い表情を作り唸った。しかし、自分のしたことなのだから、自分で責任を取らなければいけないのも分かっている。一人だけ体温がぐっと下がったような感覚でいた。
店内は空調が効いている。とはいっても、今は人の出入りや熱気で、室内温度も上がっているし、そこまで寒いわけではない。
眞戸は笑顔を崩さないまま、坂間を手招きした。靘耶は内心ご愁傷さまと他人事のように思いながら、眞戸に連れられ裏に行く彼を見送ったのである。それとタイミングよく入った注文の声に、靘耶はノートとペンを持ってカウンターを出た。
そして、カウンター横のドアから裏に来た二人は不穏な空気の中向き合う。坂間の身長は、眞戸とそんなには変わらない。
表の少し賑やかな空間と隔離された場所で、さて何をされるのだろうと不安になってくる。眞戸も何やら真剣な顔つきになっているし、嫌な予感がしていた。
ふと、空気が揺れる。眞戸が小さく頷いて、口を開いた。
「とりあえず、服を脱いでください」
「……え?」
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