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70《祐樹side》
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何も考えられなかった。
ただ、自分のΩを自分だけのものにしたい、そんなαの欲望だけだった。
俺の服を必死で掴む手に、キスの間に漏れる吐息に、頭がおかしくなりそうだった。
言葉を交わすこともなく、ただずっと唇を合わせていた。
「祐樹ー!?ゆうくん見つかったー?」
バルコニーの下から、拓人の大きな声が聞こえてくる。
俺はその声に正気を取り戻した。
「、ッ、わるい、」
唇を濡らし、熱い息を零すこいつをベッドに残し、俺は急いでバルコニーへ出る。
「ここにいたけど、間違えて酒を飲んでたみたいだから、そのまま寝かせておく!」
下では、私のグラスが!と、副社長が慌てている。
…嘘は言っていない。
ただ、大きな罪悪感とともに、部屋へと戻った。
「………はあぁ…」
さっきまで、俺の理性を奪い去っていくほどの色気を醸し出していた人物は、少し離れた隙に、うつらうつらと舟をこいでいた。
ぐらっと大きく前に傾いた体を急いで受け止め、起こさないようにベッドに寝かせる。
俺はすやすやと眠るこいつの唇の端をそっと拭い、部屋を出た。
扉の横の壁に体重を預け、そのままずるずると床に座り込んだ。
…あいつに何をした?
あの日、俺はもう振り回されないと決めたはずだ。
絶対に、あの人のようにはならないと決めたんだ。
…なのに、俺は、
「祐樹さん?」
「、ぁ、伊吹…」
突然声をかけられ驚いて顔をあげると、水を持った伊吹の姿があった。
「…どうしたんですか?…顔、真っ青ですけど…。」
「ぁ、いや、大丈夫だ。」
「…でも、」
「この部屋にいる。でももう寝てるから、水だけ飲ましてやって。」
口早にそれだけ伝えて、伊吹の前から去る。
そうしないと、全てが見透かされそうな気がした。
その後、伊吹が庭に戻ってくるのを待ち、明日のために早めに解散することになった。
酒を飲んでいない田村さんと社長の車に分かれて乗り込み、自宅へと送ってもらう。
その夜は、なぜだか寝付けなかった。
明日のことか、これからのことか、
それとも…さっきのことか。
分からないが、ただずっと、心臓が落ち着かなかった。
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