アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
酒場の真実②
-
「で、でも………アンデッドって本来なら、生きてる人達を襲う存在なんじゃ………」
「ああ、それは簡単な話しよ。皆、生前はワタシを可愛がってくれていた人たち。だから、生前の行動を繰り返す皆にとって……この酒場やワタシやノルマンさんには危害を加えないんでしょうね。」
僕は、またしても想太と一緒に読んでいた絵本に書かれていた《ゾンビやゴースト》を思い出す。
以前、想太は得意気に、生きてる人を襲うゾンビやゴーストといった存在は纏めて《アンデッド》って言うんだと教えてくれた。
「このお酒、ドクワク草が入っているね。………なるほど、ティーナさんは、アンデッドの皆が墓場で安らかに眠ってほしいと思う反面、ずっとこの酒場で楽しく過ごしてほしいと望んでるんだね。だから、ミスト達生者には毒になるようなお酒をアンデッドの皆には出し続けてるんだ。ドクワク草は、調合する量によって、生者には毒となるけどアンデッドには逆に幸福感を与えて甦らせるから、薬草学では危険とされるものだもんね~。」
ミストがカウンターに置いてある毒々しい色の液体の入った、お酒に目をやる。そして、ティーナがお酒を作っていた場所に置いてある赤紫色の草がある事に気付いたため、その赤紫色の草を指差しながらティーナへと淡々と言う。
「まったく、ちょうどいい量にするための調合をするのに、苦労したわ。でも、その苦労も今夜までになりそう。貴方たち、突然だけど……セイレーンって知ってる?」
「………セイレーン?」
僕らは、急にティーナの口から意外な言葉が出てきて、思わず首を傾げてしまった。
「どうして、この酒場の秘密である、アンデッドの話から……急にセイレーンの話に変わるの?」
「それは…………」
僕が、ティーナに尋ねると少し戸惑いの表情を浮かべたティーナはチラッとノルマンに目線を移してから、一旦、言葉を切る。
「待て、その話はワシから話そう。セイレーンの話はな、そこで錯乱し、叫び続けているワシのバカ息子……ウィリアムに関係しているんだ。」
「ある日、ウィリアムはセイレーン退治をするために、この酒場の近くにある海にでた。しかし、ワシの孫でもあり、娘のレインが船の中に、興味本意で隠れている事を知らずにセイレーンと戦っていたんだ。そして、父親を驚かそうと船の外に出たレインは、セイレーンの歌声に惑わされ、自分から水面に飛び降り………暗い水底に沈んでしまった。それ以来、ウィリアムはずっと自分を責めているんだよ………」
ノルマンの話を聞いた僕らは、またしても唖然としてしまい、思わず口を閉ざしてしまう。ウィリアムが酒場に入ってきた時には、そんなに切ない事情がウィリアムの背景にあるとは思いもしなかったからだ。
「…………青白い光《ウィルオーウィスプ》を操っているのは《セイレーン》。《ウィルオーウィスプ》を退治しようとして、生前の行動を繰り返しているのはアンデッドの皆。《セイレーン》を退治すれば、《ウィルオーウィスプ》も消えて、アンデッドの皆は墓場で安らかに眠り、《セイレーン》の歌声の魔力のせいで娘を失ったのは自分のせいだと錯乱しているウィリアムを救う事が出来る。」
「………お願い、《セイレーン》を退治して欲しいの………」
今にも消え入りそうな程、儚いティーナの声が僕らの耳に聞こえてくる。
ティーナの目には、いつ溢れてもおかしくない程の大粒の涙が浮かんでいるのが分かって、僕は胸が苦しくなってしまった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
81 / 477