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約束
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勇利 side
『221.58』
会場のモニターに僕のこのフリーの点数が、
世界歴代最高得点が表示されたこの時を、
僕は絶対に忘れたりなんかしない。
「勇利?いつまでそれ見てるの?」
ホテルの部屋に戻ってきてもそれを眺める僕に
ヴィクトルが呆れたように笑って聞いてくるけど、
そんなの気にならない。
「いつまででも見ていたいよ。」
色は少し違うけれど、
僕が望んだグランプリファイナルのメダル。
「だって、ヴィクトルと一緒にとれたメダルなんだよ?
こんなに嬉しいこと二度とないかもしれない。」
ヴィクトルは選手として復帰するつもりなんだ。
僕としてもそれは嬉しい。
けれど、それは僕のコーチを辞めることでもある。
そう考えると、少し寂しい。
僕をここまで連れてきてくれたのはヴィクトルだから。
「何言ってるの。
俺はそのつもりはないよ?」
「えっ、だってヴィクトル選手として…」
「勇利、少しだけ、昨日の話の続きをしようか。」
2人で向かい合わせに座る。
昨日と同じように、僕はベッドに座って、
ヴィクトルはその向かいの窓の前に。
何を言うのか。
ヴィクトルの言葉が怖くて、
目を合わせられない。
「勇利、僕を見て。
そんな暗い顔しないで。」
「だって…」
「勇利」
ヴィクトルに片手で顎を掴まれて、
無理矢理を合わせられる。
あの綺麗な手のどこにそんな力があるのか
不思議なくらい抵抗できない。
「勇利。俺は勇利のコーチを辞めるつもりは無い。
だけど勇利とユリオに俺の得点の上をいかれたのは
正直納得できない。」
「ならっ…」
「最後まで聞いて。
だから勇利…
あと、四大陸選手権と世界選手権が終わったら、
このシーズンが終わったら…
ホームリンクを僕と同じ、ロシアに移さないか?」
「え…?」
ホームリンクをロシアに。
そんなことを考えたこともなかった。
ヴィクトルと同じってことはきっと、
ヤコフコーチや、ユリオがいるところ。
「いきなり、こんなこと言ってごめん。勇利…
俺は我が儘なんだ…
これまでもそうだったけど…
俺がこんなに強く望むなんて、
俺自身でも驚くくらい、初めてのことなんだよ。
俺は、勇利がホームをロシアに移してくれるなら、
ヤコフの元で選手をやりながら、
勇利のコーチをしたい。」
「そんな、無茶な…」
「…ごめん。勇利も、こんなのは嫌…」
「そうじゃなくて!」
ヴィクトルは本当、ぼくのことわかってない…
「僕は!ヴィクトルがもっとコーチやりたいって
言ってくれて嬉しいしやってほしい!
そのためならホームリンクをロシアに移すことだって
なんだってする!
でもヴィクトル…
僕、ヴィクトルの選手としての、スケーターとしての
道の邪魔はしたくないんだ…
コーチと選手なんて、両方一緒にやってたら
ヴィクトルの体が壊れちゃうでしょ?
それでヴィクトルの本気のスケーティングが試合で
見られないなら、僕は1人で頑張る方を選ぶ。」
ヴィクトルが、驚いた顔してる…
それはそうだよね。
これまで僕がヴィクトルに意見したのなんて
片手で数えるくらいしかないもん。
これで、諦めてくれるかな…
『わかった。』
僕はこの言葉を待ってた。
なのに…
ヴィクトルの表情はみるみる明るくなっていく。
「ははっ…」
「ヴィクトル…?」
なんで、笑ってるの?
「なんだ勇利。そんなこと心配してたの?」
「そんなことって…!」
「勇利…僕は君が思ってるほど弱くないよ?
ていうか寧ろ…選手として
勇利に負けるつもりは無いよ?
たとえ僕が選手と、勇利のコーチを両立してやっても、
来シーズンのグランプリファイナル。
勇利にもユリオにも近付かせないよ。
俺は金メダル以外、獲る気はないからね?」
そうやって笑顔で宣言するヴィクトル。
これは、負け、だな…
いつも僕はヴィクトルには勝てない。
「わかった…
ヴィクトルにコーチやってもらう。
もちろん選手としても、手を抜かずにやってもらう。」
「そんなの当たり前だよ」
「でもヴィクトル。
ひとつ、ヴィクトルの言葉の訂正をいいかな?」
「なんだい?」
にこにこしているヴィクトルの顔。
こんなことをヴィクトルに宣言していいものか、
とも思うが、これが、来シーズンの僕の目標…
夢じゃなくて、目標、なんだ。
「ヴィクトル。
来シーズンのグランプリファイナル。
絶対に僕がヴィクトルとユリオを負かして、
金メダルを獲る。」
あーあ。そんなぽかんとした顔しちゃって…
でもこれだけは、絶対に譲れない。
「クスッ…いいね勇利。
俺、そういうの大好きなんだ。
来シーズンのグランプリファイナルの表彰台はきっと、
俺と勇利とユーリだね。」
「ヴィクトル。それ約束だよ?
次こそ、ヴィクトルと同じ、対等なところで
戦ってみせるから。」
「Ok…約束だ。」
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