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この日、俺はゼミの後輩である聖史と一緒にとあるミッションのために休日を返上して山の中へと繰り出していた。
「そろそろいいんじゃないか」
「そうですね」
俺たち二人に課されたミッションを十二分に達成したところで、来た時に降りたバス停まで戻ってきた。
「次のバス何時?」
「……」
バス停の時刻表の前に立つ聖史に問い掛けるも返事がない。
何だよ、時刻表の見方も分からないのか。
今は全部ナビとか地図アプリで見るから仕方ないかと横から覗き込んでみて唖然とした。
まだ4時台なのに終バスはとっくに行ったあとだった。
「マジで……」
夕方まで山を満喫した人のためにもう1本ぐらいあってくれてもいいのに。
もしかして、山歩きが趣味な人は足腰が丈夫だからバスがなければ余裕で駅まで歩けるでしょうって事か。
足腰が丈夫じゃない山歩き初心者の俺たちには酷なチャレンジだけど仕方ない。
バスの行き先は駅だから、今いるこの道に沿ってバス停を辿っていけば駅に着く筈だ。
「歩く……か」
「ですね」
こんな山の中で流しのタクシーなんか捕まるわけないから自分の足に頼るしかない。
慣れない山歩きで疲れた身体に鞭打って麓を目指し歩き出した。
ひたすら歩き続けてようやく辿り着いたのは寂れたを通り越して朽ち果てた無人駅だった。
「これ本当に駅として営業してんのか?」
自動券売機も見当たらず、切符売り場の窓口もカーテンが下りて人の気配はゼロ。
改札も自動改札なんて洒落たものがあるわけでもなく使用済みの切符を放り込む木箱があるだけ。
そんな頼りない光景を目にしてしまうと、いつも混んでるの何だのとブーブー文句を垂れながら通っていた自動改札が途端に恋しくなった。
切符売り場のシャッターは下りているけどその脇には2色刷りの時刻表が壁に貼られていて、ダイヤ改定日として4月1日の日付が入っている。
「次は何時だ?」
壁に掛かっているシンプルな丸い時計で時間を確認して時刻表に目を戻すとどうやらあと15分ほどすると電車が来るようだ。
ふと下に目を移して、その次の電車が翌朝までないのを知ってゾッとした。
下手をすればこの古ぼけた駅舎で一夜を過ごす羽目になっていたんだ。
「切符買わなくていいんでしょうか?」
「だって買うとこないし」
中で車掌さんに払うか、着いた駅で払うかすればいいだろう。
とりあえず中に入ってホームのベンチに腰かけていると、今更ながら風の冷たさが身に染みる。
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