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「まずは手水舎で手と口を洗おうか」
神社の中に入り、参道の端を歩く。
「作法だっけ? よく知ってるんだなぁ」猛が感心したような声で言った。
「いや、教えてもらっただけだよ」誰からとは言わなかった。猛も察したのか、聞いてこない。
手水舎で手と口を清め、参拝してから、ふたりで屋台を覗いて歩いた。
「焼きそばの屋台、いくつかあるなぁ。大盛りとかホルモンとか……どれを選ぶか迷うんだけど。何がいいと思う?」
「猛はよく食べるから、大盛りがいいんじゃあない?」
きょろきょろと辺りを見回していた猛が、はっとする。
「焼きとうもろこし……やばい。すんごくいい匂いがする」
「確かに美味しそうな匂いだね。買う?」
「しかし焼きそばも捨てがたい」
「両方食べたら? 猛ならいけるよね?」
「たこ焼きも食べたい」
「食いしん坊か」
圭吾がツッコミを入れると、猛は顔をくしゃくしゃにして笑った。彼は愛嬌があって、人懐っこい。まるで犬のようだ。
夕日はほとんど沈み、屋台の明かりが薄闇に浮かびあがっている。ぽつり、ぽつりと思い出したかのような間隔で置かれている提灯の明かりが綺麗だ。
猛は結局、焼きとうもろこしと焼きそば、たこ焼きをぺろりと平らげた。細身な身体のどこにそんな量が入るのか不思議でならない。デザートにクレープまで食べている。
「クリームがついてるよ」圭吾は笑いながら猛の顎を指差した。
「え? マジ? どこ?」顎を突き出してくる。
指で拭ってやり、ついたクリームをどうしようかと一瞬迷う。まあ、いいか。圭吾は汚れた指をぺろりと舐めた。
「思ったよりも甘いね」いや、甘いのもが苦手だからそう感じるのかもしれない。
ふと猛に目をやると、感情が読めない奇妙な表情を浮かべていた。
「どうかした?」
「普通、そういうのはカップルでやんない?」
「そういうものなのかな」圭吾は首を傾げた。確かに、友人へこんなことをしたのは初めてだけれど、そこまで意識することでもないように思う。
「そろそろ帰る? お腹、もう入らないし。胃がぱんぱんに膨れてるよ」
「明かりが綺麗だから、もう少しいようよ。ほら、こっち」手を引かれた。「屋台の裏側に行こう」
人の波を掻き分けて、猛が先を歩く。さっきから、移動する時は歩く道を彼が作ってくれている。
屋台の裏側に石段があったので、そこにふたりで並んで座った。
「みんな楽しそうだね」
「俺も楽しいし、圭吾も楽しいでしょ。そうそう、仕事はどんな感じ?」
「うん、立山さんも拓也君も、とてもよくしてくれて……ほら、ふたりとも明るい性格みたいだから。暗い気持ちなんて吹き飛ぶよ」
「拓也はあれだ、馬鹿なだけだって」
「そういえば拓也君とはどんな関係? カットモデルっていうだけじゃあなさそうな親しさだったけれど」
「あいつと? 親しい? 冗談でも笑えない」猛は途端に顔を顰める。
「拓也君が無邪気にじゃれついていたから」
「誰にでもそうなんだって。圭吾にも抱きついてくるはずだよ」
「ま、あ……そうだけど」
ざわりと風が吹き付けてくる。
「なあ」猛に手を握られた。「まだ、早いかもしれないとは思うけど」
思わぬ接触に、心臓が大きく跳ねる。猛をじっと見つめてみたら、頬が僅かに赤らんでいた。
「何が、早いって?」
「いや、あの……さ。俺、あの、おまえのことが好きなんだよね」
一瞬、聞き間違いかと思った。圭吾は大きく目を見開く。
「猛って、ゲイなの?」
猛が頷く。
「女は完全に駄目なやつ。バイじゃあなくて、ゲイなんだ」
「モテまくってるのに? 彼女がいなかったっけ?」
「女友達。申し訳ないけど、隠れ蓑にさせてもらってた」
「気づかなかった」圭吾は唾を飲み込んだ。「まったく気づかなかった」
「ゲイだからかな。実は、おまえらの雰囲気を感じて、付き合っているんだろうなって、キスを目撃する前から察してた」猛は眉尻を下げた。「それで、まだ早いって。あいつを忘れていない、他の誰かと付き合う気分にはまだなれないだろうってわかってるけど、さ。でも、うかうかしてたらまた……他の誰かに奪われちゃうから」
しゅんと頭を垂らす猛に、圭吾はきょとん、とした。
「それって、つまり、もしかして、高一の頃から俺を? 中学は別だったし、知り合っていなかったはずだから、そういうことだよな?」
「うん。そう。俺、ゲイってことを誰にも知られたくなくて。近所に大分歳がいったゲイが住んでるんだけど、その人、すごく差別を受けてて。それを知っていたから、自分もゲイだって認めたくなかった。誰かに気づかれたら同じ目に遭うかもって思ってたんだ。だからおまえを好きな気持ちは隠してた」手が微かに震えている。
圭吾は黙って猛の話に耳を傾けた。
「でも、あいつが……気づけばおまえとあいつが付き合うようになっていて。すごく悔しかった。自分が情けなくて、思いを告げられないことが切なくてたまらなかった」
更に強く手を握られた。
「猛……」思わず圭吾は名前を呼ぶ。しかし、それから続かせる言葉が浮かばなかった。
猛は弱々しく微笑んだ。
「返事はまだ、いいよ。きっと断られるだろうから。でも、もし寂しさを覚えたら、悲しくなったら、誰かをまた愛せるまで傷が回復したら、俺との未来を考えてみて?」
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