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○月×日『元彼と①』
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駅から少し歩いたところにあるカフェ。
ここのランチセットが気に入っていて、休日にふらっと1人で立ち寄ったりする。
今日は、待ち合わせのために訪れた。
駅から近いこともあって、店内は賑わってる。
その店内の賑わいが、ざわつきに変化した時、僕の座る席の前に1人の男が立った。
「久しぶり、蘭さん」
矢野昂平。
高校時代、短期間付き合った男だ。
店内がザワつくほどに彼はいい男。
そこは高校の頃と変わらない。
けど今はあの頃より大人になって、男前が上がってる。
背も伸びてるし、顔つきも体つきもしっかりしている。
派手な金髪碧眼を際立たせる顔の造形美は変わらず健在してる。
「昂平……久しぶり」
僕が彼に応えると、昂平は僕の向かい側の席に腰かけた。
「急に連絡来たから驚いた」
昂平はそう言いながら注文を聞きに来た女性店員にアイスコーヒーを頼む。
女性店員は頬を赤く染めながら注文を復唱し、厨房へとそそくさと去っていった。
「相変わらずだな…」
昂平を見る子はみんなあんな顔してた。
昂平は慣れているんだろうし、興味も無いのか見向きもしないけど。
「蘭さん、何かあったんだろ?」
「…………うん、」
何か……あったという程ではないかも。
ただ相談相手が欲しかった。
けど、元彼を相談相手にするなんて、……僕って……
「…ごめん、」
今更選択を間違えたことに気づいた。
下心も不純な気持ちも無い。
でもだからって昂平に頼るなんて…
「蘭さん、何に謝ってるかわかんねぇけど、俺だって何も考えずにここまで来たんじゃないし、今更帰れとか言うなよ?」
「……そ、だね…………そうだよね、ごめん。僕、今いっぱいいっぱいで、自分のことしか考えられなくて…」
「いいから。あんたはもっと自分のこと考えるべきだし、間違ってない。せっかく久々に会ったんだから、色々聞かせてよ」
「…………昂平、すごく大人になったね、」
パニックになりかけた僕を一瞬で鎮めてくれた。
「ま、俺も色々あったから。」
そうだよね…、もう…3、4年経ってるんだもんね。
「それで?なんか思い詰めてる感じだけど、どうしたの」
昂平が運ばれてきたアイスコーヒーにミルクとガムシロップを1つずつ入れると、ストローをさす。
その指先を目で追っていると、ふと気づく。
昂平の薬指に銀色の物体が光る。
僕は自分の相談事も忘れてその物体に意識が持っていかれた。
「…………昂平、結婚したの?」
思わず口にしていた。
昂平は一瞬"なんの事?"て顔をしたあと、僕の視線の先を追って、自分の薬指の指輪を見て納得という顔をした。
「結婚できるわけないだろ。」
アイスコーヒーを1口飲むと、昂平がため息混じりにそう言う。
「日本じゃ同性婚は認められてないし。」
「…ぇ………相手、柚野ちゃん?」
僕がそう言うと、昂平が呆れ顔で僕を見る。
「当たり前だろ。他に誰がいるんだよ」
そっか、
上手くいってるんだ……
凄いな……
凄い……
ほんとに……ほんとに、昂平と柚野ちゃんは色々あったのに、それを乗り越えたってことだよね……。
「…それ、柚野ちゃんとお揃いなの?」
僕が昂平の指輪を指さすと、昂平が頷く。
「ああ。パートナーシップ結ぶ前につけ始めたかな。」
「パートナーシップ…?」
それって……
「あー、まぁ婚姻と同等であるってやつ。そういう制度があるって知って、……まぁ、いわゆるプロポーズをした。その時に指輪は俺が選んだんだ。」
「昂平がプロポーズ?」
今日は僕の話を聞いてもらうために来てもらったのに、どうしても気になって昂平に質問ばかりしてしまう。
けど昂平は嫌がらずに応えてくれる。
「高校卒業する直前くらいにさ、ゆずのやつ急にガキっぽさがぬけてきたんだよ。背が伸びてさ、体格も男ぽくなった。まぁ、それでも俺からしたら可愛いまんまだけど」
さりげなく惚気たな。
「男ぽくなった柚野ちゃんか……」
……想像できないな。
僕から見ても可愛い子だったし。
小さくて、大きな瞳で、女の子みたいだった。
「まぁそれで、アイドルのなんとか君に似てるってチヤホヤされだしたんだよ。中学の時にもこんなことあったな……てモヤモヤしてきてさ」
確か中学生の頃、クラスの女の子に柚野ちゃんが可愛がられてたのに嫉妬してやらかしちゃったんだったよね…。
もしかしてまた……?
「それで、我慢ならなくて、プロポーズした。」
「ぇ…、……は?」
「プロポーズした。」
「いやいや、聞こえたよ。」
プロポーズした?
さっき高校卒業する前の話って言ってたよね……?
「けどまだ卒業もしてないし、そもそも同性婚できねーし、ゆずはまだ家族に俺との事話したくないって言うし、結局指輪だけ先に渡した。牽制と、束縛がしたくて。」
牽制……束縛……
「薬指に指輪してたら女避けになるだろ。それでその時は満足した。で、20歳になった時に改めてプロポーズした。」
「そっか、確かパートナーシップて20歳以上だっけ?2度目はOKしてくれたの?」
「ああ。でも結局家族と話したり、引越しとか手続きとかでごたごたして21歳のゆずの誕生日にやっと俺だけのゆずになった」
昂平が照れくさそうに、すごく嬉しそうに微笑んだ。
すごく幸せそう。
よかった……
本当に幸せなんだ……。
これは本当に僕の勝手な気持ちだけど、あの時昂平を手放したのは間違いじゃなかったと思えた。
カッコつけたかったわけでも、いい人ぶりたかった訳でもない。
昂平に深入りするのが怖かった。
結局自分が大事だっただけだ。
けど、2人が結ばれたと知って、僕がしたことにも意味があったのだと……そんな風に思いたかった。
「……よかったね、昂平。柚野ちゃんと結ばれて、……おめでとう」
「ありがと、蘭さん」
カッコよくなったな、昂平……。
柚野ちゃんのために、かっこいい大人になったんだろうな……。
あのプライドの高い昂平がプロポーズ2回もしちゃって、束縛したくて指輪まで渡して…………
そこで、ふと何かに気づいた気がして、思い返すように言葉にして呟く。
「……、……指輪、女の子避けに……?」
「え?ああ、なったよ。凄くな。別の意味では騒がれたけどな。まぁアイドルに恋人いたら騒ぐわな。俺的には気分良かった」
「……、」
そうだ、
そうだよね……
指輪してるから結婚してるとは限らないんだよね……?
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