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罰
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――なんで
ユキトは確実に誰もいない校庭の隅に駆け込んだ。そして息を切らしながら建物の壁に寄りかかる。多々ある監視カメラからも死角の筈だった。
こんな、自分の情けない顔を誰にも見られたくなかった。きっと赤面して、でも泣きそうになっている。ユキトは手首を傾け、握り締めたままの小型画面を再確認した。
『誕生日おめでとう』
南倉のメールには、これだけが書かれてあった。
何故知っているのかは、いつかの雑談で話したから。ただのお喋りだ。だけど探偵は律儀に、それを記憶していた。
「…なんで……?」
でも、それにしたって、どうして。振った相手に、こんなメールを送るんだろう。
探偵から依頼人へのサービスだとしたら、いくら何でも空気を読まなすぎだ。おちょくられているんだろうか。
本当に止めて欲しい。こっちは、必死に吹っ切ろうとしているのに。恋心を忘れようと精一杯なのに。
「やっぱり、最悪…っ」
こんな事をされたら、忘れられない。
狡い。苦しい。
好きなのに。まだ、こんなに好きで好きで苦しいのに。本人じゃなくて、あの古びたビルを思い浮かべただけでも、胸が軋んで泣いてしまっているのに。
――ダメだ
熱い涙が流れる目を空いている掌で覆う。
これじゃダメだ。メールの一文だけでこんなにグチャグチャになっているのに、本人になんて到底会えない。
会いたいけど、凄く凄く会いたいけど。探偵の前でも、きっと惨めに泣いてしまう。困らせてしまう。呆れられてしまう。
――嫌われたく、ない
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