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トラウマ
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「ん…や、だ…」
「ユキトくん、よく見て。俺は誰?」
顔を少しだけ離して問いかける。声を霞も荒らげず、ユキトの逃げる頭を宥めるように撫でた。
無理に改善しようとしない方が良いかもしれない。心に根付いたトラウマを掘り起こすのは、少年の自我に関わるレベルで危険だ。それは南倉も重々承知している。
でも万が一ユキトが自分の障害を知ってしまったら、結局は苦しむ事になる。彼は大企業の御曹司には似つかわしくない性格だ。好きな人と愛し合えない自分を責め、南倉に対して引け目を感じるだろう。
それなら、今だ。今が、唯一にして絶対のチャンスだ。かなりのリスクだが、少年の人生を背負う覚悟はある。
――俺は、そのくらいにはこの子に惚れてる
「ユキトくん、俺を見て。俺の名前を呼んで」
父の過去の声が聞こえているだろう少年の耳に吹き込む。父のだと思っているだろう手で静かに顔を包む。どんより濁っている黒い目を見つめる。
「好きだよ、ユキトくん。………愛してる」
言葉にしてしまえば陳腐な台詞だ。好きだの愛してるだの、今日はどうしてしまったんだろう。少し前の自分が見たら鼻で笑うと南倉は確信できる。
でも、何の引っ掛かりもなくサラッと口から転がり出た。理由など知らない。この感情は理屈じゃない。
しかし、割と衝動的だったそれは功を奏した。
ユキトの揺れていた目が定まり、ぱちぱちと瞬きをする。過呼吸気味の息が落ち着き、顔に生気が戻ってくる。
「っあ…?な、南倉さん…?」
面前で慈愛を込めて微笑む青年に、少年は豆鉄砲を喰らった鳩のような表情をした。
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