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家庭内事情
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「坊っちゃん、これを」
稲田が後ろ髪を引かれつつも仕事の為に去り、時任も退室する頃合い。
おもむろに時任がポケットから小さいケースを取り出し、ユキトに差し出した。一瞬固まったユキトは無言で受け取る。秘部に塗る、痛み止めの軟膏だ。
「久しぶりの旦那様のお帰りでしたので、手酷く為されたかと…」
その通りだった。ぞんざいな慣らしで挿れられたため傷んでいた。時任は聡明で、だけどそれが時に人を居たたまれなくさせる。完全な好意だと分かってはいるけれど。
執事は数少ない父親の所業を知る一人だから心強く思う。が、同時に恥ずかしくもある。二十代半ばの彼はユキトにとって兄のような存在だ。七歳の頃から彼に世話を焼かれてきたので尚更かもしれない。
「あり、がと…」
やっとの事でユキトは礼を言う。俯いた頭は上げられなかった。自分が物凄く汚い人間になった気がする。
するとベッドに腰かける彼の前で、いきなり時任が片膝を立てて跪いた。ぽかんとするユキトの股の上に置かれた右手を取り、力強く両手で握る。まるでお姫様にでも忠誠を誓う騎士のようだ。
「坊っちゃん、私に気遣いは無用です。そしてどうか顔を上げて、堂々としていて下さい」
きっちりとオールバックに固められた黒髪の、銀縁眼鏡の奥にある穏やかな、でも意志の強い目がユキトを見つめる。
「……うん、馬鹿力」
「あっ申し訳ありません!」
憎まれ口を叩いたユキトが、実はうっかり泣きそうになっていたのは内緒だった。
パッと血相を変えて手を離した時任を見て、ユキトは熱くなった目元を誤魔化して再び下を向く。稲田で温められた心が、また優しく温められていく。
ユキトの暗い夜は、こうして何とか正常を保ち更けて行った。約一ヶ月後に、全てが一変するとも知らずに。
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