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大切な人
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「ユキトぉ、それ何?」
その日は修学旅行の最終日、帰りの飛行機内での事だった。
まあ『修学』とは名ばかりの金持ち学校の道楽で、実際10日余りのフランス巡りは殆ど自由行動だった。参加も自由で生徒は半分ほどだったが、在宅しても息が詰まるだけのユキトは参加した。時任や稲田は居るが彼らにもそれぞれ仕事がある。ユキトだけに構っていられない。それに―――
「御守りだよ」
隣の座席の轟(とどろき)というクラスメイトが指し示した自分の胸ポケットを一瞥して、ユキトは答える。少しはみ出していたそれを取り出し赤茶色髪の轟に見せてやった。
それは綺麗に繕われた稲田手作りの御守り。心配性の彼女が出発前に渡してくれたのだ。中には『ユキト坊っちゃん無病息災!』と、ズレてないようでちょっぴりズレている言葉が書かれた小さな厚紙が入っている。
そもそも、ユキトの旅行行きを強く薦めたのは稲田だった。「学生さんは勉強と遊びが大事です!」と言って。幼い頃に父親を亡くした彼女は学生時代、家計を手伝ってバイト三昧だったらしい。修学旅行にも行けなかったそうだ。
そんな話を聞いては、ユキトも行かない訳にはいかなかった。お土産用の餞別もしっかり貰っちゃったしな、とユキトはクスッと笑う。その笑みを勘繰った轟に、うるさく質問責めにされてしまったのは端折る。
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