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大切な人
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――喜んでくれるかな…
ユキトはだだっ広い我が家の玄関前に立ち、手に提げるお土産袋を見て浮き立つ。稲田の喜ぶ顔を想像するだけで楽しく、選びに選んだ品々だ。一秒も考えず適当に買った父母の分とは雲泥の差だった。
自分のキャリーバッグを運ぶ運転手の後ろから家の中に入る。すでに勢揃いで並んでいたメイドと時任が挨拶をしてくれた。
いや、勢揃いじゃない。
「…稲田さんは?」
『ただいま』も忘れユキトは訊ねる。何度見回しても、一番会いたいお団子頭のニコニコ笑顔はどこにも居なかった。4人のメイドは顔を見合わせ口ごもり、それがユキトを不安にする。
見かねた時任が一歩前に出て、告げた。
「坊っちゃん。稲田さんは……退職なさいました」
「は…?」
ユキトは頭を強く殴られた気がした。間の抜けた声しか出ない。
「一昨日の事で私共もまだ動揺しておりまして……坊っちゃん、こちらへ」
ショック状態のユキトはフワフワした無重力の感覚のまま時任に促され、使用人たちから離れる。
誰にも見えない奥の通路まで来ると、先を歩いていた時任はクルリと振り返った。燕尾服の内ポケットから封筒を取り出しユキトに手渡す。
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