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その男
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どこへ行くにも車で送迎されていたユキトは、最近徒歩で通学している。
無駄かもしれないが鍛えたいのだ。いざという時に備えて。
「っ…」
しかし帰り道、ユキトは強い目眩に襲われた。
ここ数日、眠ると夢でもあのDVDが再生される。その度に跳ね起きていた。完全な寝不足だ。
「だっさ…」
今まで、本当に甘えて暮らしてきたのだと痛感する。体力無さすぎだ。情けないが道端で倒れる訳にもいかないので、近くの公園で少し休んでいく事にする。
ベンチに座り鞄を開けた。破損しないように、厚めのファイルに閉じた稲田の手紙を取り出す。御守り同様こちらも持ち歩いている。何度も読み返した文章を見つめた。
――どんな思いで
一体どんな思いで、この文面を綴ったのだろう。
手紙の稲田は、ユキトの知る稲田のままだ。多分、いやきっと、ユキトを心配させない為に。ボロボロになりながらも、最後の最後まで明るいメイドを演じた。
――俺は、加害者の息子なのに
しかも彼女が酷い目に遭ってる最中、自分は暢気に旅を楽しんでいた。
胸が強く痛む。じくじくする。息が上手く吸えなくなり、目に涙が溜まる。
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