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二年B組の扉を開くとすぐに、悪友である悠馬が声をかけてきた。
「よぉ。今日も優斗さん可愛かったかぁ?」
にやにやとしたその頬を思い切り引っ張りたい。俺よりも数センチ程高い身長がまた癪に障る。
ほんのり茶色に染めた、少し長めのショートカットを筋盛にする時間があるのならばもっと勉強をしたらどうだ。どこからどう見てもギャル男なのに、そう言うと怒るその性格がまた、面倒くさいわ。
二重の目尻が吊り上った目を細めながら、不満げに唇を尖らしてきた。
「おい、聞いてんの?」
「聞いているよ、阿呆」
ため息をつきながら返す。
自分の席へ向かい、鞄を机の上に軽く放り投げた。
そうこうしている間も悠馬の話は止まない。
「不機嫌そうだなぁ。優斗さんに朝のチューをしてもらえなかったのか?」
何という事を言い出すんだこいつは。
「そんなもん何でしてもらわんといかんのだ」
顔を顰めるのだが、内心焦った。
こいつはいつもいつも妙ににたにたとしながら兄貴の話をふってくる。もしかしたら俺のこの衝動に気が付いているのだろうか。兄貴、優斗をつい探してしまう目を――って、違う。探さない。探さない。
俺は、変態じゃあねぇ。
頭を振って煩悩……もとい、阿呆な考えを吹き飛ばす。
肩に手を置かれた。
「まぁ、仕方が無いよなぁ。優斗さんすんげぇ可愛いもん。そんじょそこらの女子なんて目じゃないレベルだし」
「そうだよな。兄貴、可愛いよなぁ。凄くさぁ、こう、何っていうか、いい匂いが――」
――ってやばい。口が滑った。
悠馬が顔を覗き込んでくる。
「お、やっぱりお前、優斗さんが好き――」
「優斗さんの話をするときは俺も混ぜろ」
ああ、航に救われた。一重の切れ長な目に鋭利な光を宿しながら近づいてくる。
しかしながらそのドでかい身長で威嚇してくんな。面倒くさい。
「何で朝っぱらから兄貴の話をせんといかんのだ」
軽くため息をつきながら、航の髪を指で示す。そこ、はねてんぞ、と彼のベリーショートの髪を眺め言うと、舌打ちをされた。
「寝癖だ。気にするな」
いや、ほぼ真横に一部が折れているじゃんか。さすがにそれは気にしろよ。
「で、優斗さんは今朝どんな風だったの?」
悠馬がこちらをちゃかしてくることを止めない。絞め殺すぞ。
そこに航が参戦してきた。
「俺にだけこそりと教えろ。ついでに写メも送れ」
――何のついでだというのだ。
ああ頭を掻き毟りたい。最近兄貴を変に意識してしまう事が強くなってきているのに、この悪友達といったら――
「そんな事よりも俺は海斗の話が聞きてぇよ」
ほんのりと高い声が、背後より聞こえてきた。それからやや遅れて、背中にずしりと重みを感じる。
これは……湊だ。
背負わせるように預けられた身体をするりとどかす。
お前のその俺よりも低い身長に安心するぜ。でないと標準のはずの自分の身長が小さく思えてしまう。
それにしても相変わらず口が悪いな。その可愛い感じの外見が台無しだ。
「話なんて特にない」
椅子を引き、席に着く。机の上に頬杖をついてぼんやりと窓の外を眺めた。
「そんな事言うなって。俺との仲をもっと深めようぜ」
頬を両手で包み込まれ、ぐきりと無理やり湊の方を向かされてしまった。
目の前に、大きな二重のやや垂れた目が見える。さらさらなショートカットの黒髪が、湊の動きに合わせて揺れていた。
「どんな風に深めようっていうんだよ」
こいつらは何度、俺にため息をつかせれば気が済むのだろうか。
おい、手を頭に乗せてくるな悠馬。せっかく遊ばせた毛先が寝るだろ。
「海斗はお前なんかよりも、優斗さんの事で頭がいっぱいなんだ」
髪のウエーブを、指でくるくると弄ばれる。
「阿呆か。何で兄貴の事なんぞ考えないといかんのだ」
と言いつつも、悠馬の洞察眼にはいつも驚かされる。
そう、頭の中は兄貴の笑顔でいっぱいだ。
――嫌がらせのキスをするぞ。
言われた言葉がまだ耳に張り付いていて……なんて、無いっ! 違うっ! 違うぅっ!
俺は変態じゃあない。変態にはならないっ!
早く授業が始まらないかと期待をするが、壁に掛けられた時計を確認すると、一限目が始まるまでまだ残り十五分もあった。
兄貴のせいだ。どきまぎとしてしまい、慌てて家を飛び出したからいつもより早く教室へ着いてしまった。
ため息を髪で隠しながら、頭上より喧々と話される声を受ける耳へ、シャットアウトをしろと命令をする。
航が小さな紙切れを渡してくるので、いぶかしみつつ、ちらりと彼を見たら、やけに神妙な顔つきをしていた。唇の前で人差し指を立てているところからすると、内緒話でもあるのだろう。
面倒だと思いつつも、長年悪友をやっている立場としてはそれを拒否できない。
湊と悠馬が本格的な喧嘩を始めた隙に、紙切れをズボンのポケットへ押し込んだ。
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