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どんっと何かに顔がぶつかった。
「海斗」
これは、悠馬の声だ。
頭を撫でてきている大きな手――きっとこれは、航で。
背中から抱きついてきて、頬を擦り付けてきているのは、湊。
お前らさぁ。
「振られ、ちまったよぉ」
ぼだぼだと涙が落ちてゆく。
目蓋を開いてみると、悠馬の顔が目の前にあって。
「そうだな」
お前まで悲しそうな顔をするな。余計に惨めになるだろうが。
航。もうそんなに頭を撫でるな。髪の毛が鳥の巣みたいになってるぞ、多分。
そして湊よ。てめぇ、手がさぁ。どうして股間を彷徨っているのかなぁ?
「俺がその悲しみを吹っ飛ばしてやる」
やめろ。やけに男前な声を出すのは本当に、やめろ。
「いや、俺が」
やめろ、航。参戦してくんな。てめぇ、胸に手を這わせてくるな。そこは男の聖域だ。乳首を掠めるようにして指を滑らせるな。
涙がまだ止まらないんだぞ。察しろ。気づけ。恋が成就しなかったんだ。せめて失恋に浸らせろ。
悠馬が顔を近づけてきた。
――頬に流れている涙を、唇で拭ってくる。
ああ、お前だけか。お前だけが慰めてくれ――
おい。吸った涙を地面に吐き捨てるな。
「しょっぱい」
そりゃあそうだろうよ。
三人の行動に呆れて脱力してしまった。
「お前らさぁ」
ため息をつきながら言ってみると……おい、三人で顔を覗きこんでくるなよ。
「持ち直したか?」
航。俺は瀕死の患者じゃあねぇぞ。
「これで諦めついたな」
おい湊、さすがにその台詞は今、禁句だ。
「ちゃんと家には帰れよ? どうしても逃げたくなったら――告白をけしかけた俺が責任を持って世話してやるよ」
昔俺が言ったような台詞を返してくるんじゃあねぇよ、悠馬。てめぇ、覚えてやがったのか。
糞ぉぉぉぉこいつらと一緒にいたら、シリアスな気分もコメディになるわっ!
で、いつになったら航と湊は触ってきている手を退けるんだろうなぁ。ゴルァッ!
「てめぇらマジでもう勘弁しろぉぉぉぉっ!」
大声で叫び、我武者羅に暴れる。
三人が驚いたように飛び退った隙を突いて、猛ダッシュでその場を走り去った。
「さぼりだー」
てめぇ、悠馬マジで覚えとけ。
「明日覚えとけよ、海斗」
湊。お前は忘れとけ。頼む。
「俺はもう、遠慮はしないからな」
今までもしているようでしていなかったじゃあないか、航。
ああああもう嫌だ何なんだこれはぁぁぁっ! どうしてこうなったっ!
思うがままに手足を動かし走る。
校門を通り過ぎて素早く角を曲がると――そこに電柱があって。
気が付いた時にはすでに止まれず、思い切りぶつけてしまった額。
小さな星を見ながら俺は、ああ家に帰って優斗へどんな態度を取ればよいのか――そういえば弁当食いそびれた、とものすごく落胆をしたのだった。
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