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Vision in the blue sky 1
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穏やかな生活を取り戻した生徒達は一つの話題で盛り上がっていた。
人間とは不思議なもので、あれだけ望んでいた平凡な生活も、それが長く続けばしだいに飽きて、つまらないものになってしまう。
人は常に刺激を求め生きていく。
そんな生徒達にとってそれはかっこうのネタだった。
あの一件で離れてしまったはずの生徒会の元書記来須廉とその元隊長であった栗原菖蒲がどういうわけか再び密接になり、なにやらイイ雰囲気らしい。
しかも解散したはずの親衛隊が今度は"二人を見守る会"として密かに発足したらしいのだ。
誰もが少しずつ前に進もうとしているなかで、前にも後ろにも行けずただその場で立ち尽くしていることしかできない者が一人。
まるで箱庭だったこの場所に取り残されているような、いや実際取り残されているのだ。
本当に愛していた者に裏切られ、これからどうすることが最良なのかも分からず、ただなんとなくソコにいるだけ。
それになんの意味があるのだろう。
迎えに来た車に急かされるように乗せられ、慌てたように去っていくそれを見て、ああ彼も人の子だったんだ、とその時はじめて思った。
それまでは何をやらせても完璧にこなす彼を、自分達とは違う別次元のもののように捉えていた。
それが、
一人の愛しい者の為に全てを投げ出し、全てを切り捨てる、そんな真似をするなんて誰が想像しただろう。
結局あの人も完璧人間ではなく、ただの人だったということか
風に誘われ柳副会長元親衛隊隊長の下関未来がやって来たのは本校舎の屋上。
いつもは施錠されているそこが極稀に警備員が掛け忘れることをほとんどの生徒が知っている。
だがそれは本当に稀なため、態々ここまで上がってくる者は滅多にいない。
それでも下関がここまで来たのは一人になりたかったからだ。
ここなら誰にも邪魔されず静かに過ごせる。
下関は念のため辺りを見渡し、誰もいないことを確認すると静かにドアを閉め屋内の空気を遮断した。
身体中に風を感じながらフェンスまで歩み寄る。
さらさらと髪を掬い上げるそれはひどく心地よい。
このまま嫌なこと全て何処かに飛ばしてくれないだろうか、とらしくないことを考えていることに気づき自嘲の笑みが浮かぶ。
自分はいつからこんなになよなよしくなったのだろう、と。
それでも、今だけは思い出に浸りたい。
目を閉じると浮かんでくるのは副会長として手腕を奮うあの人。
いつだって自信家で、人よりちょっとだけプライドが高くて、それが尾を引いて他人を否定して周りに誰もいなくなってはじめて傷ついた顔をする。
そんな困った性格のあの人が本当に愛おしいと思った。
そんなあの人の傍にいたくて、あの人の手助けがしたくて親衛隊の隊長になったんだ。
ゆっくり目蓋を持ち上げると飛び込んでくるのは眩しいくらいの青。
いつの間にか忘れていた感情に、純粋だったあの頃に思いを馳せていると突然声がかけられた。
「こんな所で何をしている?」
聞き覚えのあるその声にゆっくり振り向く。
「・・・・・・あんたの方こそ、こんな所に来るなんて珍しいじゃん、櫻川」
冷たい声色で言いつつ、心の中ではちょっとだけ櫻川に感謝していた。
あのまま風に吹かれていたら気づきたくもない自分の内面に浸食されていただろうから。
すこーしだけだけどねっ!
もちろん悪態を吐くのは忘れない。
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