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それは、偶然だった。
「別れてくれ」
「…わか、った…。」
花壇の手入れに行こうとして、向かう先の校舎の陰から聞こえてきた声に蓮田宗徳(はすだむねのり)は思わず足を止めた。しまった、まずい所に来てしまった。踵を返そうにも手に持っている肥料袋が重たくてできれば引き返すのは勘弁したい。
どうしようかと迷っていると足音が一人分だけ聞こえて、とりあえず話は終わったのかとほっとする。振られた子には申し訳ないが、できればすぐに立ち去ってくれないだろうか。その気はなかったものの、別れ話を立ち聞きしてしまったことに罪悪感を感じる。もういなくなっただろうかとそっと覗き込むと、花壇に向かってじっと立ちすくんでいる人物が目に入った。
泣くのを耐えているのだろうか、強く握りしめたこぶしは白くなり顔色も悪い。
宗徳はその姿に自分の胸がずきりと痛んだ。と同時に、先ほどまで迷っていた足を花壇に向けて踏みしめる。
「!誰だ!」
気配を感じたのか、宗徳が近づくとその人物は振り返り、眉間にしわを寄せながらきつくこちらを睨んだ。その振り返った人物を見て、何よりも驚いたのは宗徳である。
「す、みません、会長…」
そう。そこにいたのは、この学園で人気no,1と言われる生徒会長の君島祐樹(きみじまゆうき)その人だったからだ。
「貴様は誰だ」
「あ、はい。園芸部部長の蓮田宗徳、二年生です。」
聞かれたことに素直に答え、ぺこりと頭を下げると君島は無言で花壇の方へ向き直った。何も言わない会長に、どうしようかと迷ったものの何もとがめられないのなら、と宗徳は肥料を傍らに下ろし、じょうろを手に取りすぐ後ろにある水道で水を入れた。
「…聞いていたか」
きゅ、と蛇口を閉めると同時に君島が宗徳の方を向かずにぽつりと問いかける。
「あー、はい。すみません。不可抗力というか、なんというか…。別に誰にも言いませんので…」
とは言っても信用してもらえるのだろうか。宗徳は気まずそうに頬をかきながらちょっと頭を下げた。
「…驚いたろう。」
君島の声は、宗徳を責めるものでもなく、ただ淡々と、だがどこか寂しそうなものだった。
聞かれた問いに、こくりと頷くと正直なやつだな、と笑われた。宗徳は、それ以上何も言わず、何も聞かず、ただ花に水をやる。会長も立ち去るどころか、無言で花壇をずっと見ていた。
「…告白してきたのは、あいつからだったんだ。」
雑草を抜いていると、上からぽつりと言葉がこぼれてきた。
「俺たちは元々犬猿の仲でな。顔を見れば文句の言い合いをしていた。だが、ある日あいつが言ったんだ。『お前につっかかると、ムキになってかかってくるのがかわいくて楽しかった。』驚いたさ。まさか、あいつが俺のことをそんな風に思ってるだなんて夢にも思わなかったから。
…初めてだったんだ。こんな俺を、かわいいだなんて言ってくれた奴は。」
君島会長は、その容姿と抜群の頭の良さで人気が高いがそれはネコと呼ばれる生徒たちからだ。会長自身、かわいらしいというよりは男らしくてかっこいい。
…宗徳も、そんな会長に心惹かれるひとりだった。
とはいえ、宗徳は会長に抱かれたいかと言えばそうではない。1日に一度、顔が見れれば幸せな気持ちになれた。すれ違うときにはそれだけで緊張した。そう、宗徳にとっては初恋であり、君島を想うだけで幸せだったのだ。想いを告げるつもりはさらさらなかった。
風紀委員長と付き合っていたのは知っていた。風紀委員長は君島に負けず劣らずのイケメンで、君島には劣るが同じく絶大な人気を誇る。
初めて二人が付き合っていることを知ったときには、お似合いだと思った。だが、同時に風紀委員長のよからぬ噂に心配にもなった。というのも、風紀委員長はどちらかといえば俺様で傲慢で、遊び人であったからだ。
でも、自分の存在など全く知らないであろう二人に何か言えるはずもない。それはただの大きなお世話。
あれだけ素晴らしい人を手に入れることができたんだ、風紀委員長もバカな遊びなどしやしないだろう。
そう思い、影から君島の幸せを祈っていた。
それなのに。
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