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「おはようございます」
「…!あ、ああ。おはよう。」
扉を開けると、部屋の前で壁にもたれて立っていた宗徳が君島を見るなり嬉しそうに少し駆けよりながらにこりと笑顔で挨拶をしてきた。
不意をつかれたように引き気味ながらも君島が挨拶を返す。
「随分驚いてらっしゃいましたね」
「あ、ああ…すまない。慣れないもんでな」
昨日、宗徳の申し出を受け入れた君島は言われるままに携帯番号とアドレスを交換した。
夜に部屋にいるときにメールの着信がなり、一瞬元彼氏である風紀委員長の安本かと期待したが、相手は宗徳だった。確認すると
『朝、迎えに行きます』
の文字。どう返信してよいのかわからず、何も返さなかったのでまさか本当に迎えに来ているとは思わなかったのだ。
「…すみません。迷惑でしたか?」
「!い、いや、大丈夫だ。朝に誰かに迎えにきてもらう、というのがなかったものだから驚いただけだ。」
しゅんと頭を下げる宗徳に慌てて首を振ると、宗徳はほっと安心したように笑った。宗徳を傷つけてしまったかと心配した君島はそれを見て同じようにほっとする。行きましょうか、と声をかけられゆっくりと廊下を歩き出すとどちらからともなくお互いのことをぽつりぽつりと質問した。
好きな食べ物、好きな本。家族構成、得意な科目。宗徳は少しづつ知る憧れの会長の姿に胸が暖かくなる。君島も昨日まで話したこともなかった宗徳のことを知るたび、なんだか嬉しくなった。
「じゃあ、また。放課後、花壇にいらっしゃいませんか?」
ふと足を止めた宗徳が君島を見上げて誘う。その言葉に、初めて君島はここが自分の教室の前であることに気がついた。
「あ、ああ。だが、俺は生徒会で…」
「無理にとは言いません。お仕事が大変なのは知ってます。俺、毎日あそこで六時半頃まで花の手入れしてますんで、気が向いたら息抜きにでもきて下さい。それじゃ。」
「君島様。今のは…?」
軽く頭を下げて去っていく宗徳の背中を見ていると自分の親衛隊の隊長が怪訝な顔をして話しかけてきた。
「ああ。…友人だ。昨日新しくできたんだ。」
自分の席に着き、教科書を取り出しながら宗徳の事を考える。
…友人、でいいんだよな?
今のところは。
『利用して下さい』
宗徳は、昨日確かにそう言った。今朝一緒に登校して、自分が振られたというのにそのことについて全く胸を痛めなかった。宗徳とたわいのない話をして、気が紛れていたのだろう。
思えば、安本と朝一緒に登校なんてしたこともない。
こうして迎えにきてもらったこともない。
去っていく宗徳の背中を思い出して、自分が宗徳のクラスを知らないことに気がついた。自分と同じ二年生だということだけしか知らない。
背中を向けて去っていった、と言うことは校舎が違うのかもしれない。
…送ってくれたのか。
それに気づいた時、君島は申し訳ない気持ちよりも暖かい気持ちが先に生まれた。
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