アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
5
-
まるでこちらなど気にせず、誰もいないかのように安本はその子の肩を抱き一度も君島を振り返りもせずにその場を去った。その光景を同じく見ていた宗徳はしまった、と顔を青くさせた。
「…行こうか、蓮田」
「かいちょ…」
「どうした?早くしないといくら日が高くなったといはいえ暗くなってしまうぞ」
君島が、まるで何もなかったかのごとく先ほどの出来事には一切触れずに宗徳の手を引き歩き出す。
宗徳も、その事について自分から君島に話題を振ることができなかった。
いつものように別れ、自分の部屋に戻った宗徳は後悔と懺悔にベッドに沈み込んでいた。
安本は、自分と君島が一緒にいるところを見てきっとあんなことをしたに違いない。自分と君島のことは噂で耳に入っているはずだ。今のところ、自分が平凡であるから会長との関係はただの友人、もしくは君島は園芸部の観察をしているのだと周りの生徒には認識されているようで宗徳が君島の親衛隊に何かされたということもない。
だが、安本はきっと勘違いしたのだろう。
勘違いではない。自分は君島に初めにあった頃よりもはるかに惹かれているのだから。
先ほどの態度を見る限り、安本はまだ君島の事を好きなのかもしれない。あれは、絶対に嫉妬だった。
君島はまだ安本の事が好きなはず。好きな奴に、目の前で自分ではない別の誰かにキスをするところなど見たくはなかっただろうに。君島に、見たくもないものを見せてしまったという罪悪感で胸が潰れそうになる。
君島が振られたときに自分は傍にいてくれと言った。『自分は踏み台でいいから』と。今でもその気持ちに変わりはない。でも、自分のせいで、君島がさらに傷つくことになるかもしれない。
どうか、そんなことにはなりませんように。君島にとって幸せな結末になりますように。君島が泣くようなことになりませんように。
安本と寄りを戻し、安本の隣で幸せそうな笑顔を浮かべる君島を想像して痛む胸を無視し、宗徳は願った。
だが、やはり事態は最悪な方へと向かっていた。あれから、二人でいるところに安本がことあるごとに現れかわいい男の子と君島の前で平然といちゃつく。見せつけるように君島の目の前で繰り広げられる行為に、君島がどう思っているのか宗徳は聞く勇気もない。それでも、そんなものを見せたくなくて安本が現れると宗徳はすぐに君島に『肥料を取りに行きたいから』や、『道具を直しに行きたいから』とわざとその場から離れられるように用事を作って君島の手を引いて君島の目に安本の姿が入らない様にした。
それでも、そんなことが何の意味もない事に気が付いている。自分が君島といる限り安本は君島に見せつける行為を繰り返すだろう。自分のせいで、君島は安本に傷つけられている。
…君島から、離れることが一番君島のためになるのかもしれない。
そう思うと同時に、安本に対してふつふつと怒りがわいてくる。
「会長。…俺に、しませんか。」
「…は?」
そんな攻防が幾日か続いたある日、宗徳はとうとう我慢していた思いを爆発させてしまった。
「俺、あなたが好きです。風紀委員長じゃなくて、俺にしませんか。」
言ってしまった後で、宗徳は我に返って慌てて口を押えた。何を言った。何を言ってるんだ、俺は。
突然口をついて出てしまった告白に、宗徳はひどく困惑する。だが、困惑しているのは宗徳だけでなく君島もそうだった。
お互いしばし言葉を交わす事も無く、ただただ正面で向かい合う。そんな空気を破ったのはほかならぬ宗徳だった。
「…すみません。頭、冷やしてきます…。」
「あ…」
ぺこり、と頭を下げて踵を返して花壇から立ち去る宗徳に、君島は何と声をかけてよいのかわからず見送る。宗徳は歩きながら、先ほど自分が言ってしまった告白についてずっと考えていた。
言ってしまった。俺にしろ、だって?君島を傷つけるような行動をしているこの俺が、どの面下げてそんなことを言える立場だと思っているんだ。俺がいるから、安本は君島の前で他の誰かといちゃつく。自分と同じように君島に嫉妬させて、君島からよりを戻したいと言い出すのを待っているのだろうか。
でも、と宗徳はピタリと足を止め、地面を見つめた。
そんな卑怯な真似をする安本を許せないと思ったのも事実だ。自分から振ったくせに、振った相手が他の誰かといるのを嫉妬して嫌がらせのような行動をするなんて。
自分なら、そんなことはしない。もう一度手に入れたいのなら、正々堂々ともう一度やり直したいと自分から言えばいいのに。まだ君島が自分を好きなことをわかっていてそんなことを繰り返す安本がどうしても許せなかった。
自分なら。
自分なら、そんなに好きで大事な人を、泣かせたりなんて絶対にしない。
そんなやつに、渡してたまるか。
宗徳は、顔を上げたかと思うとくるりと体を翻し君島の元へと戻るために一歩踏み出した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 8