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「か、いちょう…?」
困惑する宗徳に、伸ばした手で宗徳が握りしめているその拳を取り自分の両手で包み込むように握りしめる。
「…蓮田。俺もお前が好きだ。」
「…!」
手の甲に口づけながら、柔らかな微笑みを向け君島が言う。
俺を、好き?
風紀委員長じゃ、なくて?
「…っ、おい、君島!冗談はよせ!」
それまで目の前の出来事に硬直し動かなかった安本が、慌てて二人を引きはがそうとする。だが、君島は自分の肩を掴む安本の手を先ほどと同じようにぱしんと軽く払った。
「君島…」
「冗談じゃない。俺は、蓮田が好きだ。…安本。俺は、お前が確かに好きだった。お前が好きだから、お前の浮気にも耐えてきたし、お前の望むことは何でもしてやりたかった。だけど、俺はずっとずっと我慢してきた。お前と付き合って、恋人同士とは片方がこんなにも我慢しなければならないものなのかととても疲れていた。お前に振られた時、確かに悲しかった。こんなに好きなのになぜ、と。でも…、」
安本に向けていた冷たい表情を甘く緩ませ、君島が宗徳の方へ笑みを向ける。そして、掴んだその手を自分の頬にすり寄せた。
「蓮田が、教えてくれた。好きな人といることは、こんなにも胸が温かくなるものなのだと。俺は蓮田とずっと一緒にいて、じんわりと自分の全てがひだまりに包まれているように感じた。幸せとはこういうもののことを言うんだと、初めて知ったんだ」
「…会長…」
君島の口から次々と零れ落ちる言葉は、宗徳の隅々までを満たし広がる。
本当に?俺といて、幸せだった?
「だから、お前とはもう付き合えない。俺は確かにお前が好きだったが、それはもう過去の話だ。俺は…、俺は、蓮田宗徳が好きだ。安本、今までありがとう。」
「…!」
あの日言えなかった、訣別の言葉。君島は今きっぱりと安本との縁を断ち切った。自分を見つめるその目に、一切の迷いがない事に気が付いた安本はきつく唇を噛みしめ、悔しそうに眉を寄せる。
「…っ、後悔しても知らねえからな!」
負け惜しみとも取れる捨て台詞を吐き、安本は地面を一度思い切り蹴り上げるとその場から駆け去っていった。
安本が去った後、宗徳は自分の手を未だ握りしめて離さない君島に困惑した目を向ける。いいのだろうか。本当に、自分でいいのだろうか。
「会長…」
「何だ?蓮田。すまなかったな。嫌なものを見せてしまった。お前を巻き込みたくはなかったんだが…いまさらか」
吹っ切れたように笑顔を向ける君島に、宗徳の心臓がどくどくと早くなる。
何て。なんてきれいなんだろうか。あの、一人佇んでいた会長を見かけた時、思ったのだ。この人にはそんな顔は似合わない。いつだって、笑っててほしい。しかも、そう願ってやまなかった笑顔は今自分に向けられている。そう思うと宗徳は涙が溢れそうになるのが分かった。
そんな宗徳の想いをよそに、君島はそのままそっと蓮田の頬に手を添える。
君島よりも少し高いその顔にを、君島は愛おしくてたまらないと言った顔で見つめる。
「会長…、俺、俺でいいんですか?」
「ああ、かまわない。いい、じゃなくてお前じゃなきゃダメだ。蓮田、俺はお前のおかげであの苦しみから這い出すことができた。毎日お前と共にこの花壇でたわいのない話をして過ごす時間が、何よりも大切になっていた。なあ、蓮田。お前はあのときに言ったな。俺が花を咲かせるまで、傍にいると。なら、ずっと俺のそばにいてくれ。俺の花は、お前といないと咲かない。お前の為にだけ咲いていたい。」
自分に微笑みかける君島の笑顔に激しく胸が高鳴る。同時に愛おしさと喜びがあふれ、触れられた頬から流れるその温かさに全身が満たされる。
「…俺も、あんたじゃないとだめです。俺はあんたの為だけの土壌でいたい。…俺の上で、綺麗に咲くあんたをずっと見ていたい。」
宗徳の言葉に一際嬉しそうな笑みを浮かべ、首に腕を回し抱きついてくる君島をぎゅっと抱きしめる。
「愛してます、祐樹さん」
初めて君島の名を口にした宗徳に、君島はひどく嬉しそうに微笑む。その笑顔が、まるで蕾から開花した花のようだと宗徳は思った。
「宗徳」
「あ、祐樹さん。お疲れ様です。」
翌日から、二人はまたいつものように花壇での逢瀬を楽しんでいる。風紀委員長はあれから君島の前で誰かといちゃついたりすることはなかった。君島を見つめるその目が、時折嫉妬に揺れているのが垣間見えるが君島はそれに気づくことはない。そして、あの花壇の前で告白をすると成功するというジンクスまで生まれた。
今日も二人は、満開の花の中でお互いの想いを咲かせる。
冬が来て花壇の花が枯れてしまっても、二人の中にはいつまでも想いという花が咲いているだろう。
end
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