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ーー んーっ、美味しい!
どれもこれも、頬っぺたが落ちそうなほど美味しい料理に、俺の顔は自然と緩んだ。
ーーこのお刺身、最高です。こっちの天ぷらもサックサク!
ねっ、ねっ?と、火宮に向かって一生懸命アピールする。
あぁ、どうしてこの感動を、俺は声にできないんだろう。
「ククッ、美味いか。それは良かった。ほら、俺のもやろうか?」
好きなのを取れ、と笑う火宮には、俺の言いたいことはちゃんと伝わっているみたいだけど…。
しゃべりたいな。
だってやっぱり、声のトーンとか大きさとかでさ、もっと伝わることは多いと思うから。
なのになんで、俺の声は戻ってくれないんだろう。
こんなに話したいのに。もうあの時の傷は、とっくに癒えているのに。
そっと喉に手を当てて、思わずギリッと奥歯を軋ませてしまった俺に、火宮の柔らかい微笑が向いた。
「焦るな、翼」
でも…。
「先生も、焦りやストレスが余計に悪いと言っていただろう?」
そうだけど…。あの人、外科が専門で、精神科は専門外だって。
ーーっ、俺、このまま一生話せなかったら、どうしよう。
急に、不安が襲って、恐怖に身体が震えた。
「翼」
っ…。
「翼、案ずるな」
っ、そんな、優しい優しい慈しみの笑顔。
「おまえの声は、必ず戻る」
そんな風に自信たっぷりに、確信的に言われたら、なんかそんな気がしてくるから不思議だよね。
「それに俺は、おまえの言いたいことも、伝えたいこともすべて、分かってやれる」
そうだね、確かにあなたは、たとえ俺に声がなくても、俺を間違いなく理解してくれる。
「だからおまえは、何も心配せず、おまえらしくいればいい」
っ、そんな、全肯定。
世界にどれだけ敵が満ちても、たった1人、あなたが必ず。
どんな俺でも、味方でいてくれるから。
ーーも、ほんと、敵わないです。
失いかけた自信が、一瞬で昇華されちゃうんだもんね。
あなたさえいれば、他には何も、なんて狭いことは言わないけれど、あなたがいるから、他の何を失っても俺は、真っ直ぐ強く立っていられる。
ーー好き。大好き。
ぶわっと溢れた想いは、温かい、しょっぱい雫となって流れ出す。
「ククッ、それに俺がいれば、真鍋も池田も浜崎も…みんなおまえの後ろにつく」
そっ、か。あなたを慕うその人たちは、俺のことも同じように、とても大事にしてくれる。
俺がすごいわけじゃないけど、あなたが持つその力はとても心強い。
「だからおまえは、どんと構えてろ」
はい。
たくさんの味方と、たった1人の何より大切な人。
声を失くした俺の手に、残っているものの方がずっと多い。
「クッ、まぁおまえの嬌声を聞けないのは、かなり寂しいがな」
なっ…ちょっと真面目な話をしていたかと思えば、すぐこれだ。
『そういうことを言うんなら、俺はずーっと声が出なくていいです』
ふんっだ。それで火宮さんは、ずっと残念がっていればいい。
「ククッ、まぁそれでも、おまえの顔と目と身体が正直だから十分か」
っな!
この人はぁぁっ。
やり込めたと思った矢先に、さらに恥ずかしい切り返しとか。
本当、どS、意地悪、バカ火宮!
「ほら、な?」
ニヤリ、と妖しく吊り上がったその口元は…。
「減らない目には、仕置きだな」
バラバラと、どこから出した、そのアダルトなグッズたちは。
減らず口なら聞くけど、減らない目って…。
「まぁ、まずは食事の続きからだ」
お楽しみはその後で、と、優雅に箸を操る火宮だけれど。
っ、そんなものを目につく畳の上に散らかされたまま、平然と食事なんて。
俺にできるかっ!
『もう本当、意地悪っ』
「ククッ、好きなくせに」
この人はぁっ。
でもはっきり否定できない俺も、まったくなんなんだろうね…。
半ばヤケクソで、パクンと口に運んだ高級そうなお肉が、蕩けるように美味しかった。
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