アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
466
-
望まない。
望まない、火宮さんは。
「っ…」
1人残された部屋の中で、俺は両膝を抱え込み、きゅぅ、と身体を小さく縮めて俯いた。
火宮が望むのは、俺の無事だけ。
俺が俺の身を守って、五体満足で火宮の隣にいること。
「っ、だ、から…霧生さんに身を差し出して蒼羽会を守るなんて望んでない。俺が俺の身を犠牲にすることなんて…」
ーー本当に?
ふと、小さな小さな疑問が頭をもたげた。
いつだって、真っ直ぐ俺のことを考えて、いつだって、何より最優先で俺を守ろうとしてくれる、頼もしい恋人。
今回だって、今だって、きっと俺の行方を、血眼になって探してくれていると思うんだ。
「だから…」
俺はただひたすら無事でいて、助け出してもらえるのを、大人しく待っていればいい。
「っ…本当、に?」
揺らいだ心に、ポツリと1つ、小さな小さな穴が開いた。
「毎回、毎回守られて。今回だって…俺が、学校を休みたくないなんて我儘を言ったせいで…」
おまえの望みはなんだって叶えてやる。
そう優しく自信たっぷりに笑う火宮の顔が、不意に浮かんでグニャリと消えた。
「俺、は…」
そんな火宮に頼りきりで、甘えきりで。
本当に、そのままでいいの?
「っ、俺は、蒼羽会会長、火宮刃のパートナーとして…」
ッ、違う…。
カシャンと揺れた、拘束の鎖が鳴った。
確かに火宮にとって、蒼羽会はとても大切な場所だろう。
俺は蒼羽会の姐と呼ばれる立場の人間として、確かにその場所を守らなければならないだろう。
「だけどそのために、俺が火宮さんの元を離れたら…あんな人の言いなりになんかなったら…。それこそその、蒼羽会にとって何より大事な火宮さん自身を、俺が損なわせることになる」
俺が火宮の手を離し、霧生のものになどなったら。組織を守るどころか、その頭を闇に落とし、狂わせることになる。
「分かってる」
俺はただ、無事でいなくちゃいけない。
黙って大人しく、火宮さんたちがなんとかどうにかしてくれるのを待っていれば…。
ガシャンッ、と、激しく拘束の鎖が鳴った。
「はは、俺、1人じゃ何も出来ないのか…」
自力で逃げ出すことも、蒼羽会にとって不利益でしかない書類を奪い去ることも。霧生の要求を飲んで蒼羽会と火宮を守ることも、何も。
こんなとき、ただひたすら救助を待つことしか出来ないなんて。
そうしている間にも、あの人がいつさっきの情報をばら撒くとも分からないのに。
「情けないなー」
小さく漏れた自嘲が、静かな空気を震わせた。
「これが、蒼羽会会長の唯一無二のパートナー?」
そりゃ、つけ込まれるわけだ。
お荷物だって言われて当たり前だ。
「本当、情けない…」
ぎゅぅ、と噛み締めた唇が、ピリッと痛んで、じわりと鉄の味が広がった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
467 / 781