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「火宮さん、俺…」
「いい。今はいい。それよりも、歩けるか?」
そっと身体を支えてくれた火宮が、チラリと俺の様子を窺う。
「はい、なんとか」
火宮に寄り掛かって、コクンと頷いた俺の目の先では、真鍋と事務所やパーティーで見たことがある蒼羽会の人たちが、霧生とその部下の見張りや仲間たちを運び出していた。
「痛っ、つぅ…」
足を1歩出すごとに、ピリリとお尻の鞭跡が痛む。
ガクッと挫けそうになる膝を、火宮にぎゅぅ、と掴まることでなんとか堪えた。
「翼…」
「失礼いたします、会長、翼さん」
「あの、これ…」と、目の前の床に傅いて、浜崎が恭しく、綺麗に畳んだ俺の制服の上着とズボン、その上に乗せられたネクタイと下着を差し出してきた。
「向こうにありましたんで…」
どうぞ、と渡される服を、火宮が受け取る。
「あぁ。翼、着られるか?」
「あ、はい。ありがとうございます。すみません」
「浜崎、後ろを向いていろ」
「はいっ」
スッと身をずらして、火宮が浜崎から俺の身体を隠してくれる。
その影で、俺は恐る恐る、受け取った服を身につけた。
*
「っぅ…」
どうにか衣服を整えた俺は、火宮と、付き従う浜崎に連れられ、部屋の外へと出ていた。
歩くたびに布が擦れるお尻が痛い。
「っ、あぁ…」
ここはホテルだったのか。
ようやく知れた自分の居場所に、こうも早く辿り着いてくれた火宮の凄さが改めて分かった。
「会長」
「あぁ、真鍋か」
霧生たちを連れ出して、指示を済ませてきたらしい真鍋が戻ってきた。
「すべて手筈通りに。お車の準備も出来ております。どちらへ」
「ご苦労。とりあえずはこのまま1度事務所に戻る」
「かしこまりました」
スッと頭を下げた真鍋が、代わる、と言わんばかりに浜崎を追い払い、俺たちの前に立って歩き出す。
それに続いて、地下一階のエントランスから出た俺たちは、用意された車に乗り込んだ。
「っ…」
後部座席に収まった俺は、お尻をつけた座面の振動と刺激に、ギクリと身を強張らせた。
「痛むのか?」
「っ、ん」
コクンと頷けば、そっと肩を抱き寄せてくれた火宮が、そのまま俺を引き倒し、膝を貸してくれる。
「辛ければ横になっていろ」
「すみません…」
あぁ、この人はこんなにも優しい。
仕事、途中だっただろうに。
俺の救出に時間を取られて、色んな予定が、きっと狂っただろうに。
他人の痕跡を残す俺を、本当は怒りたいだろうに。
じわっと浮かんだ涙を、俺は必死に歯を食いしばって堪えた。
「っ…」
甘やかされてる。
何もかもから守られて、最優先に大切にされて。
その、大きな、広い腕の中で、俺はぬくぬくと身を任せているだけ。
その俺のために、犠牲になった人がいる。
その俺のために、車も一台駄目になった。
その俺のために、あなたの時間や予定を狂わせて…。
噛み締めた唇が震え、目がじわりと熱くなる。ぎゅぅ、と固く閉じた目を、俺は火宮から隠すように、顔を背けてその太腿にぎゅっと押し付けた。
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