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「あぁーっ…」
目の前がチカチカと眩んで、たまらない快感に背中がビクビクと仰け反った。
「クッ、きつ…」
きゅぅ、と寄った火宮の眉が、なんて色っぽいんだろう。
はっ、はっ、と短く上がる熱い吐息が、火宮も感じてくれている証みたいで嬉しい。
「あ、あぁっ、火宮さっ…じんー」
ピュッと飛んだ白濁が腹の間を汚し、同時に締め付けたナカで火宮が弾ける。
「ッ、翼」
ふわりと微笑んでいく火宮の顔が愛おしい。
甘く蕩けるように俺を呼ぶ低い声に、全身が熱く痺れた。
「あぁ…」
好きだなぁ。
大好きだ。
ノロノロと火宮の顔に伸ばした手をふわりと取られ、その薬指に啄ばむようなキスが落とされる。
『一生、共に』
口パクだけでそっと紡がれた言葉に、ふわりと頬が勝手に緩んだ。
「じん…」
幸せで嬉しくて、ポロリと伝った涙を掬われる。
「ふっ、甘いな」
ペロリとその涙を口に含んだ火宮が、幸せそうに微笑んだ。
*
「っ!朝!」
ほけほけと、幸せな眠りに浸っていた俺は、ふと瞼の裏を照らす明かりに気がついて、慌ててガバッと身を起こした。
「ククッ、おそよう」
「っーー!火宮さんっ。学校!」
急いで飛び起きた俺の横で、火宮がワイシャツにネクタイを引っ掛けた姿で笑っていた。
「今日は休ませると言ってあっただろう?」
「えっ?あ?そういえば?」
昨日、ベッドの中で聞いたような、聞かなかったような?
不確かな記憶にコテンと首を傾げたら、クックッと可笑しそうに喉を鳴らされた。
「真鍋がとっくに連絡済みだ。おまえも起きたなら、さっさと朝食を済ませて支度をしろ」
「え?あの?えっと、火宮さんはダークスーツって…」
会社だろうか。
それにしては時間が遅い。
「本家へ行く」
「は?え?」
「もちろん、おまえもだ」
スルスルと、器用にネクタイを結んだ火宮が、ニヤリと唇の端を吊り上げた。
「本家って…どうして」
まさか学校を休ませてまで、七重さんのところに遊びに行くわけじゃないよね。
「ふっ、おまえは、蒼羽会会長のツレとして同席しろ」
「っ!」
それってまさか…。
「霧生と、輝流会が終末(おわ)る瞬間に立ち会うのさ」
クックックッ、と楽しげに喉を鳴らす火宮は、時々こうして、ヤクザの頭だったんだってことを思い出させる。
ブラックなオーラが全開で、俺でも思わず顔が引きつる。
「あ、の…えっと、スーツですか?」
「ん?」
「いえ、その、蒼羽会の姐って…」
「いや、別に何でも構わないぞ」
「え、でも…」
俺だけ私服でいいんだろうか。
「ククッ、オヤジは別に気にしないだろうし、他の人間も、俺のツレに、服装ごときでごちゃごちゃ言うまい」
「はぁ…」
そういうもん?
「気になるなら真鍋にでも確認しろ」
すでにリビングに待機しているぞ、って。
「えぇっ?ちょっ、待たせて?」
「おまえが中々起きないからだ」
「はぁっ?だったら叩き起こしてくれれば…」
「だらしない顔をして、あんまり幸せそうに眠っていたものでな」
ニヤニヤと、揶揄うように笑う火宮の悪戯な表情がムカつく。
「だらしないって…。そもそも、寝坊するくらい昨日疲れさせたのは誰ですかっ」
半分は…いや、半分以上は火宮のせいだ。
「ククッ、おまえがもっともっとと煽るからだろう?」
「はぁっ?」
「仕置きで疲れていたくせに、シろ、と言ったのはおまえだろう」
「なっ…」
半ば強制的に言わせたのは火宮だろうに。
このどS!
カァァッ、と、色んな意味で頭に血が上ったところに、ふと、静かなノックの音が鳴り響き、冷や水をぶっかけるかのような、冷静で単調な真鍋の声が聞こえてきた。
「丸聞こえです。朝っぱらからお熱い痴話喧嘩も結構ですが、そろそろ本格的にお支度をしていただけませんと、お約束の時間に遅れます」
ニコリ、と、目だけが笑っていない真鍋の顔が目に見える気がした。
「クッ、ほら」
小舅がうるさいぞ、と揶揄うように笑いながら、火宮が寝室のドアを開ける。
「っ…おはようございます」
「おはようございます」
ピシッとしたスーツに身を包み、背筋を伸ばした綺麗なお辞儀をした真鍋が、そっとリビングに出た俺たちを迎えてくれた。
だけどその目が。
『戯れていないで、とっとと支度をしろ』と、まったく微笑んでいない冷たさで語っているのが見えて、俺の愛想笑いはそのままヒクリと引き攣った。
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