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「えっ、ここ?」
ドラマのような高層ビル。
ここでご飯食べるってこと?
「ほら、早く」
和希は僕の反応を見て楽しそうにしている。
僕はとりあえず和希の後ろを着いて行った。
エレベーターに乗り、和希は最上階のボタンを押す。
「一番上?」
「そうだよ、めっちゃ眺め良いの」
「ふーん」
素っ気なく返事してみたけど、心の中じゃ結構ワクワクしてる。
こんな所、縁もゆかりもないから、こんな高層ビルに入るのなんて最初で最後かもしれない。
エレベーターの中はガラス張りになっているので、外の景色が丸見えで、上がるにつれて綺麗な景色が見えてくる。
「すごい綺麗」
昼間だけどとても綺麗で思わず感嘆の言葉を漏らした。
昼間でこれなら夜に来たらもっとすごいんだろうな。
「優、降りるよ」
ずっと外を見ていて、着いたのさえ気付かなかった。
「あ、待ってよ」
先に降りた和希を追いかける。
そこは見ただけで高級と分かるレストランだった。
綺麗なドレス風の服を身に付けた人も居れば、スーツを着こなす人まで様々で。
高校生の僕らが来る場所ではない、絶対に。
「ねえ僕ら場違いじゃない?」
和希にそっと声をかけた。
だって浮いてるんだもん、間違いなく。
「良いんだよ別に。高校生が来ちゃダメなんてどこにも書いてねえだろ?」
そう言われればそうなんだけど……
レストランの入口に入ると、黒い服を纏った真面目そうな人が出てきた。
「いらっしゃいませ、ようこそ」
「高橋です」
「高橋様ですね、お待ちしておりました。こちらでございます。お荷物はお預かりいたしましょうか?」
「お願いします」
和希がいつものおちゃらけた雰囲気は出さず、しっかり敬語で受け答えしている。
僕はじっと黙って二人を見つめることしか出来ない。
「ほら優、上着と荷物渡して」
「あっ、」
僕は急いで上着を脱ぎ、荷物と一緒に黒い服の人に渡した。
和希も同じように渡す。
「ではこちらへ」
黒い服の人に続いて僕らも歩き出す。
こんな所、絶対場違いなのに。その気持ちをグッと抑えた。
和希が僕のために(?)予約してくれたんだ、感謝しよう。
僕らが案内されたのは、窓側のテーブル席。
テーブルの上には〝高橋様〟と書かれていてすごいなぁと思った。
「座ろうか」
お互い向き合って座ると、黒い服の人が僕らに一礼した。
「改めまして本日はグランドプリンスホテルへお越し頂きまして誠にありがとうございます。コースの方ですが高橋様のご要望通り、こちらお勧めフルコースとさせて頂きますのでご了承くださいませ。お飲み物の方ですがこちらは別途料金となっておりますので、お願い致します。お飲み物お決まりでしたらお伺い致しますが」
メニューを僕らに見せてくれた。
飲み物がずらっと並んでいるのだけれど、その隣に書いてある値段に驚きを隠せなかった。
コーラ400円ってどうなってんの……
「和希、これ……」
値段の所を指差すと、和希は笑っていた。
「良いんだよ、好きなの選べ」
「う、うん。えっと……じゃあ、コーラ……で」
「じゃあ俺もコーラ」
「かしこまりました。では失礼致します」
黒い服の人は下がって行った。
もう色々と驚きの連続で気が遠くなりそうだった。
「和希、ありがとね。本当にびっくりした嬉しいよ」
まだ一度もお礼を言ってない事に気付き、僕はお礼を伝えた。
きっとこんなの何万円もかかると思う。
どうしてこんな高級な所を選んだのだろう。
「俺の家さ、元々貧乏だったじゃん?」
和希が淡々と話し出した。
僕は黙って聞く。
「でさ、親が離婚して、俺はかーちゃんと一緒に暮らしてた。ここまではお前も知ってるよな?」
「うん」
これは中三の時の話。
僕らは親友だったから、和希の事は何でも知ってるつもりだった。
「それで、最近、かーちゃんが付き合ってたやつと結婚したんだけど、その相手がめちゃくちゃ金持ちで、貧乏な俺らにとっちゃ最高の話だった。かーちゃんはもうベタ惚れで、手に負えない。結婚したのは良いんだけど、俺は正直、今の父親は好きじゃないんだ。全て金で解決しようとする。何かあれば金、金、金。俺にも媚を売って金をいっぱい渡してきた。小さい頃、金持ちに憧れだったけど、こんな金まみれのはしたない生活をするくらいなら、俺はあの頃の貧しいままの暮らしで良かった。俺は今特に欲しい物なんてねえし、行きたい場所もない。だったら今までお世話になったお前にちょっとでも恩返しがしたくて、わざわざ高いレストラン予約したんだ。あんな父親に貰った金なんて早くなくなっちまえば良い」
初めて聞いた話だった。
最近は大貴にベッタリだったから、和希の話なんて聞いてあげれなくて、一人で抱え込んでたんだ。
「ごめん、気付いてあげれなくて」
僕が泣くのは違うと思う。
だから僕は溢れそうになった涙を抑えた。
「謝るなって。お前は今日という日を楽しんでくれたら良いんだよ」
そこに若い女のウエイトレスがコーラを運んできた。
「失礼致します」
丁寧に置いて持ち場に戻って行く。
「ほら、グラス持って」
言われるままにグラスを持つと、和希が僕のグラスに自分のグラスを軽くぶつけた。
「誕生日おめでとう、優。乾杯」
優しく微笑むその姿は、一人前の大人だった。
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