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それから運ばれてきた料理はどれもオシャレで美味しかった。
僕は料理が来る度に目を輝かせて恥ずかしい。
お互い色んな事をゆっくり話して、穏やかな時間だった。
「次はデザート?」
「そうだよ、お前甘いのいけるっけ?」
「昔は食べれなかったけど、最近は美味しいと思えるようになって食べれるよ」
「そうか、良かった」
和希が安堵の表情を見せた。
僕は不思議に思ったけど、特に何も言わなかった。
外はもう暗くなり始めていて、昼過ぎに来たのに時間はあっという間だった。
「あ、そいえば和希、頭ぺっちゃんこのままだね」
ふと、ワックスを付けていないのを思い出した。
和希の髪は、寝癖直しが乾いてただのサラサラの髪になっている。
「あ、ほんとだな。せっかくここ来るんだったらもっとガチガチに固めときゃ良かった」
二人で笑い合った。
と、急にレストランの全蛍光灯が消えた。
「えっ、何、停電?」
僕はびっくりして大きな声を出してしまった。
しかし、和希は特別驚いた様子はない。ビビりの癖に何で驚いていないのだろう。
「ハッピバースデートゥユー」
暗い闇の中に優しい光の塊がその歌とともにこちらに向かってきた。
「ハッピバースデートゥーユー」
周りにいたお客さんたちも、手を止めて歌い出す。
そして僕らのテーブルの目の前へ。
「ハッピバースデーディア優」
みんなが僕の方に笑顔を向けて手を叩いている。
和希は相変わらず笑顔のまま。
「ハッピバースデートゥユー」
歌が終わり、みんなが大拍手をする。
「改めて誕生日おめでとう」
和希が優しく祝ってくれた。
僕は涙腺がやられて、涙がポロポロと出てきた。
「ほら優、ロウソク消して」
僕は頷いて17本のロウソクを丁寧に消した。
そこでまた大歓声が。
「ありがとう…………嬉しい……」
感動しすぎて声すら震えて出ない。
泣きじゃくる僕を見て、みんなが笑う。
「すみません、シェフ。ありがとうございました」
「とんでもない」
シェフと和希が握手をしている。
これを和希一人で計画してくれたんだ。
僕は一生懸命な和希を想像すると少し笑えた。
「何笑ってるんだよ、早く食べよう」
「うん!」
シェフが僕らのためにオシャレに切ってくれた。
「高橋様がいちごをふんだんに使ってくれとおっしゃいましたので、大サービスさせて頂きました。この春、旬の果物いちごを是非ご堪能あれ」
シェフが一礼をして戻って行った。
「ねえ、いちごがいっぱい!美味しそう!食べていい?」
「どうぞ」
どこを見てもいちごだらけで、見ているだけで幸せになる。
大きめに一口分切って頬張ると、もう何とも言えない美味しさが口の中に広がった。
「これうめーな」
和希も一口食べてその美味しさに驚いていた。
「すっごく美味しい」
僕はケーキを食べる手が止まらなかった。
そしてホールのケーキを二人で平らげた。
「あー、腹いっぱい。死にそう」
和希は食べすぎて背もたれに体を預けている。
僕も少食にしては結構食べた方だと思う。
「もうちょっと休んだら帰ろうか」
和希の提案に頷く。
ちょっと今は動けそうにないし、長居するのも良くないだろうし。
「何か飲み物飲む?俺はアイスコーヒー飲むけど」
メニューを広げて僕に見せてくれた。
ここで引くのも申し訳ない気がしたので、僕はじっとメニューを見つめる。
「ホットココアが飲みたい」
「ん、分かった」
和希はウエイトレスを呼んでアイスコーヒーとホットココアを頼んだ。
いつもに増して和希が大人びて見えるのは気のせいじゃない。
「あ、もうこんな時間じゃん」
和希がスマホを見て時間を確認したので、僕も同じく確認すると、9時になろうとしていた。
昼過ぎにここに来たのにもうこんな時間。ちょっとゆっくり食べすぎたかな?
そこにウエイトレスがアイスコーヒーとホットココアを持ってきた。
「志村に連絡しなくていいの?」
「大貴、まだ帰ってこないから大丈夫だよ」
「いつもそんな遅いの?」
「……うん。10時半くらい」
「そっか。お前寂しがり屋だから寂しいだろ」
冗談で和希は言ったんだろうけど、あながち間違ってない。
大貴は帰ってくるのが遅い日は、起きるのが遅い。
僕はどちらかと言うと早寝早起きなタイプだからすれ違いの日が多い。
……そりゃ寂しいよ。でも、そんな事働いて疲れてる大貴に言えない。言える訳ない。
そんな気持ちを押し殺して僕は黙った。
「寂しい時は寂しいって言えば良いんだよ。好きなやつに寂しいって言われて嫌なやつなんていないから」
和希はふっと笑った。
「で、でも……」
「じゃあお前が仕事で忙しくて疲れてて、そのタイミングで志村に、お前と話せてなくて寂しいって言われたらどう?嫌だと思う?面倒臭いと思う?」
「思わない」
僕は即答した。
なんなら嬉しいくらい。
「だろ?つまりそういうことだ」
なるほど、でも大貴がどう思うかは分からない。
少なくとも僕は、嬉しいって話で。
「ありがと、和希」
和希は残っていたアイスコーヒーをストローで全部吸い込み立ち上がった。
「ほら、行くぞ」
僕の手を引いて歩き出した。
「えっ、ちょ、え、和希、」
僕は良く分からず和希に引っ張られた。
「お前は先に下のロビー行ってて」
「あ、うん」
僕はエレベーターに乗り込み、一階を押した。
何で和希急に行くぞなんて言い出したんだろう。
先に下行ってろって言われたのはきっとお会計するからだろうけど。
考えてるうちにエレベーターは一階へ着いた。
降りると人はパラパラといて、僕は一人ロビーの椅子に座って和希を待った。
椅子に座りながら何となく外を見ていると、僕の大好きな人の姿が見えた。
「大貴だ!」
今は仕事中のはずなのにこんな所でどうしたんだろう。
椅子から立ち上がり、追いかけようとした足を止めた。
「えっ、…………」
大貴の隣には、背の高い綺麗な女の人が大貴の腕を組んで一緒に歩いていた。
大貴の顔は嫌ではなさそうな顔をしている。
大貴たちはどっかに歩いて行ってしまった。
もう追いかける気力もない。
僕は椅子に倒れ込む様に座った。
「優、お待たせ」
「………お帰り」
「どうした?」
「ううん、何でもないよ」
「なら良いけど。行こっか」
和希が出口へ歩き出したので、僕も着いて行く。
足が思うように動かない。
あの女は誰?
何で大貴と一緒にいたの?
どうして大貴は腕を振りほどかないの?
頭の中にはそんな事ばっかり浮かんでいた。
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