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酒に酔っても食われるな5
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別荘の裏手にある山の山道を歩きながら、山本は「良いところねぇ」と呟いた。「暫く行ったら、社があるんですよ」と明典は返しながら、山のひんやりとした独特の空気に懐かしさを覚える。小さい頃、山と川しかない祖父母が住む田舎へ遊びに行った時は、よくこういった所で遊んだものだった。
高い木々の葉が直射日光を遮ぎり、湿っぽい土には苔が生えている。山道は石畳になっているが、所々草や木の根っこがはみ出ており、時折それを股越さなければならない。緩やかな傾斜を暫く行けば、おそらく誰も管理していないのだろう古い社がある。そこまで行って、帰るつもりでいた。往復30分ぐらいだ。
不思議な気分になるのは、こんな道を一緒に歩いているのが山本だからだろう。彼女は時折木々を見上げながら歩いている。
「宮家くんって子ども好きなの?」
「いや、そうじゃないです。可愛いとは思いますけど」
「それにしては、小さい子とよく遊んでたわね」
「あぁ。あれはもう顔見知りの子たちばかりなんですよ」
この旅行に参加している家族は、川嶋の別荘やその周辺の自然をえらく気に入ったのか、ほぼ毎年顔を合わせている。去年参加していない明典のことを覚えている子どもさえ居た。おそらく、一年に一回顔を合わせる遠い親戚のおじさんというぐらいの立ち位置なんだろう。
明典が就職して初めてここへ来た時はまだ母親の腕に抱かれていた赤ん坊が、今では浅瀬で蟹を取ったりしながら遊んでいるのだ。それには感慨深いものがある。肩車をしている最中、髪の毛を引っ張ってきた子どもなんて、初めて会った時は海に入るのを怖がっていたというのに、今年は他の子どもと同じように海の中ではしゃぎ回っていた。子どもの成長は実に早いものである。
「いいお父さんになりそうね。宮家くんって」
山本は明典の顔を見ながら微笑んだ。
「そうですか?」
「結婚は?しないの?」
「相手が居ませんからね」
居たとしても、法律的に結婚など出来ないのだが、山本はそんなことまで話しをする必要のある相手ではない。彼女は「そう」と頷くだけで、その後は黙ってしまった。明典も、なんとなく結婚の話を山本に振る気にはならず、かといって違う話題も思い付かなかったため黙る。
暫く二人は無言で歩いていた。沈黙が流れるそんな中、明典ははたとあることに気が付く。こんなに木々がたくさんあるというのに、さっきから風で葉が擦れあう心地よい音しか聞こえない。蝉の鳴き声がしていない。
脚を止めて、空を見上げる。
「…………雨、降るかもしれませんね」木々の葉の間から見える空は、いつの間にか灰色になっていた。
「そう?そういえば、さっきから暗くなってきたかも」山本も同じように見上げる。
「風も冷たいです。降りますね」
「戻りましょう」と、そう提案する前に、明典の見上げた顔に冷たい物が当たった。雨だ。
ポツポツと降りだした雨は、たった数秒で一気にその雨足を強めた。バケツの水をひっくり返したように、大雨が降ってくる。「きゃっ!」と短い悲鳴を上げたのは、隣を歩いていた山本だ。
これが一人で歩いていたならば、濡れることなど気にしない所だが、薄着の山本がいるとなるとそうにもいかない。このまま引き返すより、社まで走った方が早そうだ。雨足の強まり方から、通り雨のような気もするため、取り敢えずはそこで雨宿りをしたほうがいいかもしれない。山本にそう説明すると、彼女は明典に賛成した。
二人で走り出したが、やはり女性の山本の方が遅れるため、はぐれてしまわないよう明典は彼女の手をとった。その細く小さな手に、明典は驚く。当然だ。山本は女性なのだから。力を入れると折れてしまうのではないかと心配になりつつ、明典は歩幅を気にしながら彼女を連れて社へと走った。
「一気に降りだしましたね」
目的の社に着いたが、雨足は一向に弱まらない。むしろ先程より雨雲は濃くなり、雷まで鳴り始めた。風も強まっている。ゲリラ豪雨という奴か。
古びた賽銭箱を通り越し、階段を登った戸の前で、雨雲が通り越すのをやり過ごす。山本は切れた息を整えるのに時間がかかっていたが、漸く整うと明典の隣で同じように空を眺めた。「海で遊んでた子たち、大丈夫かしら?」と、彼女は別荘で遊んでいた居残り組のことを気にかける言葉を口にする。ちょうど明典も考えていたことだ。「大人もいるから、大丈夫だと思いますけど」と自分の見解を口にしながら彼女へ目を向けると、その姿にぎょっとする。
彼女の着ていたブラウスは雨に濡れ、下着が透けていたのだ。ビキニ姿の時から分かっていた彼女の豊満な胸は、下着に寄せられ谷間を作っている。水着ではないのだから、見てはいけないだろう。明典は然り気無く山本から視線を外し、彼女との距離を取った。
山本はそんな自分の姿に気が付いているのか、いないのか。全く気にかけている素振りはない。しかし、走ったことで上がった体温は、濡れた服と風によってすぐ持っていかれたのか、両肘を抱きながら、片手で濡れた髪をかきあげた。「……寒いね」と、彼女が小さな声を漏らす。その言葉に返事をする前に、明典の二の腕に何か当たる感触がした。その瞬間、明典はあからさまにそれを避けてしまう。
「ごめん、当たった?」
「いや、そうじゃないです」
そうじゃないわけではないのだが、あからさまな避け方をしてしまったことを取り繕うために、明典は着ていたパーカーのジッパーを下ろす。そして視線はそのまま雨の降る外へ向けたまま、脱いだパーカーをおもむろに山本へ差し出した。
「……汗かいてるし、濡れてますけど、良かったら着て下さい」
急な明典の行動に、彼女は呆気に取られているのか、一度明典と差し出されたパーカーを交互に見ると、礼を言ってそれを受け取る。それを隣で着る彼女の動きが止まれば、また暫く雨と風の音だけになった。冷たい風が、パーカーを脱いでタンクトップだけとなる明典の体温を奪っていく。
「……大丈夫?寒そうだけど」
「大丈夫です」
「………………」
「台風みたいですね」
「……………そうね」
まいったな。明典はズボンの後ろポケットを取り出す。買い物グループからの連絡はないため、向こうは特に問題もないのだろう。まだ川嶋らが別荘へ帰りつくには時間があるが、一応向こうが到着するまでに帰れなかったことを想定し、メッセージを入れておく。山本にお熱な同僚に送っては、あらぬ誤解を招きそうだったため、川嶋へ山本と社で雨宿りしていることを伝えた。運転をしているはずだが、返事はすぐに返ってくる。『分かった』と。そして次に『気を付けろよ』とも。
気を付けろ?明典は首を傾げた。この近くで、地崩れでも起こったことがあるのだろうか。しかし、そんな話は川嶋から聞いたためしはない。『何をですか?』と返している時、いよいよ寒くなってその指が震え出した。そんな時、山本からタンクトップの裾を引っ張られる。
「……どうしたんですか?」
「ここ、開きそうよ」
山本が指さしたのは、すぐ後ろにある戸だった。川嶋の別荘へ来る度、この社へ立ち寄っているが、この戸が開いていたためしはない。何を言い出すかと思いきや。こういう所は普通、鍵でも掛かっているものだろうと思う明典の思考が読めたのか、彼女は悪戯を考え付いた少女のような顔をすると、おもむろにその取っ手へ手を掛け横に引く。すると、確かに立て付けが悪く、ガタッガタッと引っ掛かりながらではあったが、社の戸は山本の片手分の力だけですんなりと開いた。
「……開くんですね」
「ここはね」
そう言うと、山本は躊躇もなくサンダルを履いたまま中へ入っていった。蛇やムカデなどがいてもおかしくないというのに、怖くはないのだろうか。戸の前で、明典は中を覗く。中は開いた戸から射し込む光と、両側の埃でくもった窓から取り込まれるので、薄暗くはあっても視界に困ることはない。想像していた仏像もなければ、何も無かった。
先に入った山本は、未だに戸の前で中をうかがってる明典に少し笑うと、「そんなに怯えなくても大丈夫よ」と腕をとってきた。それに引き込まれるかのように、明典も漸く中へ入る。
木の匂いというよりも、埃とカビの臭いが鼻腔をくすぐったが、中は案外綺麗にされていた。人の手が入っている様子に、明典が感じていた気味の悪さも薄れてくる。風が吹く度、ガタガタと揺れるが、確かに雨風を凌ぐことができてほっとした。さすがにタンクトップだけでは寒かった。あのまま外にいれば、風邪を引いていたかもしれない。
「よく分かりましたね。鍵掛かってないって 」
さすがに所々クモの巣がはってある天井を見上げながら、目の前にいる山本へ話しかける。彼女はまるで、ここの戸が開くことを前々から知っていたようだった。初めて来る場所だろうに。『ここはね』と付け加えた山本の言葉が気にかかり出した時、彼女は「昔、ここに来たことがあるのよ」と明典の疑問に小さな声で答えた。
そうか。来たことがあるのか。川嶋と同じ学校に通っていたのだから、不思議ではない。そう納得がいくと、今度は山本の言った『それほど仲が良いわけではなかった』という言葉が気になり始めた。それほど川嶋と仲が良いわけではなかったというのに、山本はこの別荘へ来たことがあるのか。そしてこの社の存在を知っていたのか。それでは何故、明典がこの社の話をした時、知っていると言わなかったのか。次々と疑問が出てくる。
山本は、明典の表情からその疑問を読み取ったのか、髪をかきあげながら言った。
「ここを教えてくれたのも才和なの。鍵が掛かってないことを見つけたのは、私だけどね」
その口元は弧を描いた時、山本の空気が一変した。山道を歩いていた時までの彼女でもなければ、職場で会う時のキツい印象のある彼女でもない。山本の醸し出す、女という雰囲気に、明典の頭の中で警鐘が鳴り響き出したが、まるで身体全体が石にでもなったかのようなに動くことが出来なかった。しかし山本が一歩一歩と距離を縮め始めると、明典の脚は無意識に後退りする。
「…………誰にも内緒で、大人の真似事がしたい年頃なのよね。思春期って」
目の前の山本がそう話し終わる頃には、明典の身体は入り口まで行き、その戸に背中が当たった。これ以上は下がれない。すぐに身体は山本と戸に挟まれる。彼女はおもむろに明典のパーカーを脱ぐと、そのまま濡れたブラウスのボタンを外し始めた。
そういえば──
明典がこの社を見つけた時、川嶋は「あそこ、時々人が掃除するんだけど、ほぼ無人なんだよね」と言っていた。
他の同僚たちと肝試しで社へ行く時も、彼女は「何も出やしないよ」と笑いながら参加しなかった。
彼女がこの社へ行っている姿は見たことがない。
彼女は決して、この社に近付こうとはしなかった。
『気を付けろよ』
川嶋から送られてきたメッセージの意味が分かった時には既に、目の前の山本はあの豊満な胸を隠す物は何も無いよ。下着がなくとも張りのある綺麗な形の胸は、たゆんと揺れる。
何にも例えようのない柔らかい物が、タンクトップの布越しに自分の胸で形を変えるのを視覚的にも確認し、明典は凍りついた。
手を取られると、胸ではなく彼女の股へと導かれていく。彼女の胸のせいで見えはしないが、薄いスカート越しに伝わってくる胸とは違った生温かい柔らかな感触に、彼女が下着を履いていないことが分かった。その中で、何か小さい突起のような物に指先が触れると、山本は「んっ」と小さな声を上げて微かに眉を寄せる。彼女の腰がくねる。
ここまで発情した女を目の前にするのは初めてだ。状況を理解した明典の頭の中は、焦りを通り越してひどく冷静になっていた。さて、この場をどうやっておさめよう。山本の気を悪くしないように、自分は全くその気になれないことをどうやって理解してもらおうか。冷静ならばすぐにでも出てきそうな案は、全く出てくる気配がない。これはどうやら、冷静なふりをして、相当混乱してしまっているらしい。
自分の頭の中の混乱ぶりを分析していると、山本が履いているスカートを捲し上げた。直接その中の物を触らされようとした時、明典は瞬時にその手を引く。彼女の手を払いのける形になったのは、もうどうやっても取り繕うことが出来そうにない。明典の反応に山本は一瞬面食らった顔をしたが、何を思ったのかクスッと笑うと、こちらを見上げながら「まさか宮家くんって童貞?」と尋ねてきた。
「……まぁ、ある意味」
「意外ね。豊富そうにも見えないけど」
首筋にすり寄ってきた山本の熱い吐息を耳にかかる。「宮家くんのこと、良いなって思ってたのよ。ずっとね」。色っぽく囁いてくる声に全身の毛が逆立つようなぞわっとした悪寒が走り、明典は反射的に彼女の肩を押した。引き剥がされた彼女の胸は、腕の間で揺れたが、それを見ても明典は何にも感じない。
「……止めましょう。罰当たりですよ、こんな所で」
「こんな所だから、いいんじゃない」
「ダメです」
「どうして?好きな人でもいるの?」
好きな人──その言葉で頭の中に誰かの姿が過った。しかし、腰を這う彼女の手がズボンに掛けられることによって、その姿は誰なのか分かる前にかき消される。
山本はゆっくりとその両膝を折り、もともと割り込んでいた明典の脚の間に座った。彼女が何をしようとしているのかが分かった瞬間、明典は素早く山本の手と共に自分の履いているズボンを掴む。もう引くことの出来ない腰を引くと、後ろポケットへ入れてあったスマートフォンが戸にぶつかり、酷い音を立てて落ちた。
その画面にうつるメッセージを見た瞬間、身体中の血が頭へ登ってくる感覚を覚える。
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