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そんなわけで、ビビり中。
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「あー······なんか、アヤカとも終わりかなぁ」
ため息混じりに嘆いた俺は、緑色に染まり始めた桜の木々を教室の窓から眺めていた。
射し込む光がぽかぽかして、気持ちいい。四季の中で、この季節が一番すきだ。
新学期も一ヶ月ほど経つ頃、そろそろお馴染みのメンバーで、お決まりの窓際の席に陣取り、俺達は優雅な昼休みを過ごしていた。
「出たねぇ、下衆男発言。ひっでぇ!」
二学年に上がってからも、相変わらず隣でピーピーうるさい市川が、俺の嘆きに過敏に反応する。
最近、とにかく彼女が欲しいことを前面にアピールしたり、洒落っ気づき始めたお前には、きっと一生解り得ない悩みだろうよ。
それにしても、こいつとまた騒がしい一年を過ごさなきゃならないなんて······彼女のアヤカが最近やたらと連絡を催促してくるぐらい、もう、うんざり。
つって、なんだかんだ市川と居る俺って──友達少ねぇのかな。
頬杖をつく俺の机の角に、今日もばっちり巻かれた髪を引っさげたミユが腰を掛ける。
「渉が別れるんなら、あたしも彼氏と別れよっかなぁ?」
「んー?じゃあ、そん次俺と付き合っちゃう?」
──別に、おまえのその予定どうでもいいから。
「また篠崎を巡る争奪戦が始まるな······」
「おかげさまで。一般君、僻むのはよしたまえ」
──で。最終的にある事ない事言われる俺が、一番の被害者になるんだっつうの。
「てかさ、早速こないだ一年の子に告られてたじゃん?女癖悪いこと評判なのにモテるよね、渉って。結局······やっぱ顔がいいから?」
──うんうん、カナコ、ありがとう。実は俺もそう思ってるよ、ありがとう。
そうそう俺、最近思うんだけど、よく見るとカナコって結構タイプなんだよねー。わりと乳デカいし、色白だし、黒髪ロング、いい。
本当に、そう思ってるよ。
本当。
本当に、くだらない会話。
そこにこれと言って特別な意味なんてなくて。
適当に流して、笑って、これが俺の毎日。
ただ黒いものが、腹の中に埋もれていくだけ。
別にそれが悪いだなんて思ってないし。むしろ、これが普通で、当たり前で。
仲間と居るのは楽しい。それは本音。
だけど、時々思う。
何が、“正解”の俺なんだろうって。
勝手に貼り付けられた印象を、どこまでも求められる。
応えられないと判った途端、“不正解”だと喚くんだ。
知らねぇよ。
「そこ、俺の席なんだけど」
その声で振り返った俺の視線の先に、一人のクラスメイトが佇んでいた。
たった一言だけ告げたあと、この──沢井明生は眼鏡を光らせた。
こいつみたいに生きれたら。
他人とか自分とか、そういうの。
繕ったりしないで、ただ真っ直ぐに。
「······あぁ、悪ぃ」
いつもより精度の高い間抜け面で静止していた市川も、思わず素直に謝ってやんの。
沢井の表情は、喜怒哀楽、どれにも当てはまらなくて、言うなれば······“無”。いつからそこに居たのかも、言葉をかけられるまで気付かなかった。
静まり返る、俺達一同。
あーあ。
雰囲気ぶち壊しちゃって。つい、吹き出しそうになっちゃったろ。
ていうか沢井、ちゃんと喋れるんだ。意外と澄んでる声でビビった。
出席番号順だと、沢井は篠崎な俺の前。
実は、沢井と俺は席が前後だったりする。
沢井に関しては未だに、とにかくちっとも動かない真っ黒な後頭部っていう印象しかないけど。
そういえば、沢井の声って聞いたこと無いかもとか······あり得ないからね。
その場の雰囲気に居た堪れなくなって、ぞろぞろと移動する俺達を横目に、平然とした顔でお友達(文庫本)と一緒に席へ着く沢井。
開放された窓からそよぐ春の風が、そんな沢井の横顔を通り抜けると、さらさらと艶やかなその黒髪を揺らした。
「なんだ、あいつ。勉強が出来ても、空気読めねぇのな」
性悪の市川の小言にクスクスと奴らは笑ってたけど、俺はちっとも面白いと思わなかった。
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