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そんなわけで、掃除中。
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「······篠崎」
「んー」
「残るなら、······手伝ってくれないか?」
「んー」
少しずつオレンジに染まり始めた空の下で、爽やかな汗と笑顔で青春を謳歌してる連中の声がグラウンドに響く。
そういえば沢井とこんな不思議な関係が始まった“あの日”も、確かこんな空の色だったなぁとしみじみ想いを馳せてみたり。あー······暇だ。
お互いに一定の音程を保った声で交わされたそれは、もしかすると、この状況になってから記念すべき第一回目の会話かもしんない。
いや、会話になってないけど。
放課後の教室──の、外のベランダに椅子を持ち出して、そこで漫画本を軽快にめくる俺にどうやら痺れを切らしたらしい。
適当に反応した俺に呆れたのか、声を掛けてきた主はそれ以上何も言わずに、しばらくして再びガタガタという音が教室から聞こえ始めた。
俺に当たるなって。
さっきから俺に無言の圧力をかけてくるこいつ──沢井がこうやって掃除を押し付けられたのも、あの薄情者たちのせい······いや、そもそもは俺が沢井に掃除当番を押し付けたせいなんだけど、まぁ今はそこは置いておくとして。
じゃあ、なんで俺がここに居るのかと訊かれれば······なんていうか、その。
別にさっさと帰ってもよかったんだけど、昨日が発売日だったこの漫画本をいち早く読みたくて、とにかく今すぐ読みたくて、本当は昨日のうちに読み終わってたりするんだけど、つい──。
ベランダから教室を覗くと、黙々と机を運ぶ沢井の姿。
白くて細くて、パッと見なんてただのガリ勉眼鏡くんじゃん。肩とか華奢だし、薄っぺらい。
あ、でもちょっとその机の重さで辛そうに歪めた表情は、そそるかも。
つい──沢井と一緒に帰れるかなぁとか、思っちゃったりしたわけで。
『篠崎、残んの?じゃあ、あとよろしく!』
なんでそうなんの。
自分のことはしっかり棚に上げるけど、あいつらバカじゃねーの。二人で掃除やれってか?
まぁ、今は沢井が一人でやってますけど。
真面目だけが取り柄なヤツなんで。
だから俺みたいなのに引っ掛けられて、こんな目に遭わせられてんのに、素直に言うこときいちゃって······ほんと、バカじゃねーの。
意地でも帰らなくてよかった。
それでも沢井と二人きりになった瞬間、そう思えちゃった俺って······やっぱ最低。自覚してるけど。
「ったく。机くらいしっかり運べよ······沢井に全部任せてたら、日が暮れるわ」
コレだからひょろひょろは。
危なっかしくて、見てらんない。
俺はシャツの袖をたくし上げながら、教室の端に寄せられた机に手をかけた。
これは天罰、うん、きっと、そう。
そうでも思わないと、惨めすぎて恥ずかしすぎる。
沢井に掃除を押し付けといて、でも一緒に帰りたくてひっそり残ってたら、その他アホ連中に掃除を押し付けられたとか。
「あ、ありがとう」
で、何でだよ。なんで沢井が俺にお礼を言ってんだよ。
相変わらずブスッとしてるくせに。いや······普通か、これが沢井の普段からの、持ち前の、通常面だったな、間違えた。
ありがとう、なんて。
なんかいろいろ、俺がお前に言いたいわ。
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