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翡翠と白鷺-2
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風紀室には誰が持ち込んだのかアンティークの食器棚が据え付けられていて、風紀長が好きなように利用できるようになっている。
先代の風紀長を務めていた八角先輩はコーヒー党で食器棚がコーヒー豆でいっぱいだったので去年の風紀室には香ばしい焙煎の香りが常に漂っていた。
春休みに先輩がコーヒー共々生徒会室に引っ越してからも1ヶ月は残り香が消えなかったが、ようやく俺の紅茶コレクションを搬入することができた。
風紀長なんてやりたくてやっているものではないけど、趣味の紅茶をゆっくり楽しむ時間が出来たことだけは大きな喜びだ。
家に帰っても沢井流の講師として働かされるだけだから、再指導という大義名分を以て居残りできるのは有り難い。
今日みたいに昂った心を静めるためにはラベンダーのハーブティーが一番だ。
戸棚の一番手前にある淡いブルーの缶を取り出して茶匙を突っ込む。
――コツン。
「……」
茶匙は虚しく空を切った。
俺以外の風紀の人間にもこの戸棚の中の茶葉は自由に使えるようにしてあるので、こんな事もあるけどよりによって……。
仕方がないので菩提樹のハーブティーを代打に据えた。
これで菩提心を養ってこの局面を何とか切り抜けたい。
電気ケトルのお湯をティーポットに注ぐとカップ共々机に運んで書類を用意した。
書類そのものは機械的に処理できるものなので否が応でもさっきのやり取りが頭の中心を占める。
どうしたものか……。
「バレーボールだろ? 俺、小学校の時バレーボールクラブだったから余裕だし」
生指の指導を子供のボール遊びと間違えている能天気な後輩に返す言葉も出て来ず、ひとまず写経をさせているが先が思いやられる。
「シロー、写経書いた~」
ピラピラと般若心経の写経用紙を振るお気楽な姿からはストレスしか感じない。
その原因とさっさとおさらばしたくて、写経を受け取ってファイルに閉じた。
2年、3年で写経の常連になっている面子も多いが、その連中だってこんなにふてぶてしくない。
人生そんなに甘いもんじゃないと思い知るためにも、いちど生指部長のおっさんと八角先輩からバレーボールでボコボコにされてきた方がいいんだ。
生指行きの印鑑を押してやればいいけどうちの学校は成績が上位に入っている人間には甘いからこの成績じゃあリジェクトされるだろう。
せめてものガス抜きに反省文の「備考」欄に「態度悪し。要指導」と書き込んでやった。
どうせ生指に書類が行く前には消すから気休めにしかならないけど少しだけ胃の痛みが楽になった。
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