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翡翠と白鷺-5
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俺の予想していた通り、入学直後のテストでは上位に入っていた葵琉のランクは中間試験でガタ落ちした。
一応、真ん中よりは上に居るのでよっぽどの事がなければ生指に引っ張られることはないだろう。
「ほら、言わんこっちゃない」
「次勉強頑張るしー」
「期末で順位落ちたら素直に黒に戻しなよ」
「わかったー」
「本当に分かってるの? 生指は俺みたいに優しくしてくれないんだよ」
もはや単なるボールペン字講座と化した写経タイムがこのまま続くのだろうと、俺も葵琉もそう思って疑わなかった。
生徒会室での会議が終わって風紀室に戻る途中でジャージ姿の生指部長とすれ違った。
今日は生指部長が顧問を務める柔道部の練習は休みの筈だからジャージで歩いていることに違和感を覚えた。
「ああ、沢井か。報告書にあった1年生な、指導しておいてやったたぞ」
それだけ告げると生指部長は俺の返事を待たずにフェイスタオルで首の汗を拭いながら階段を下りていった。
1年生? 何のことだ?
頭の中が疑問符で埋め尽くされる。
最近、生指預りになるような1年生はなかったはずだ。
根拠はないがいやな予感がする。
写経と報告書にを取り纏めて提出する期限は今日までだから、今月分はまだ生指にいってない筈だ。
だから、葵琉ではない。
きっと誰か別の1年生が生指に目を付けられたんだ。
ひとつ大きく息を吸って吐き出し、気持ちを落ち着けてから風紀室を目指す。
「志朗さん、お疲れ様です」
風紀室に足を踏み入れると、鞘が部屋の掃除をしてくれていた。
「あれ? ここにあった書類の束は?」
「あ、それなら生指に提出しておきました。期限が今日までになっていたので」
仕事の出来る後輩で助かるよ。
鞘に向かって何とか笑顔を作って見せたが、頭の中がぐるぐると回転している。
そう、あの落書きは消した筈。確かにこの手で消したんだ。
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