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翡翠と白鷺-6
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「飲めるか?」
ハーブティーを人肌程度に冷ましたカップを渡すと葵琉は受け取ろうとしたが、腕が痛むのか顔を顰めて手を引っ込めた。
「いいよ、無理するな」
隣に腰掛けてティーカップを葵琉の口許に持っていくと少しだけ飲んで首を左右に振った。
口の中も切っているのだろう。
現実にこの目で見るまでは認めたくなかった。
どうか他の人間であってくれと思った。
あいつでだけはあってほしくなかった。
体育倉庫のマットに倒れていた葵琉は変わり果てた姿をしていた。
倒れても容赦なく胴体に撃ち込まれるスパイクの破壊力は伊達ではなくて、半袖の体操着から伸びる痣だらけの腕は元の肌色が何色だったか見てとることができない。
「見たら……いやだ」
フラフラで何かに掴まっていないと立てないのに顔だけは必死で隠そうとした。
汗と涙でぐちゃぐちゃになった顔を他人に見せたくない。
そんな強い意思が伝わって、俺は葵琉を背負って風紀室に担ぎ込んだ。
白い肌に浮かぶ痣がどれだけの痛みを醸し出しているだろうかと想像するだけで身震いがした。
「何があったの?」
紅茶を淹れている間に葵琉の顔は綺麗に拭われていた。
汗だらけのジャージから制服に着替えて、髪も綺麗に整え、辺りには制汗スプレーと思しきグレープフルーツの香りが漂っているので「指導」の形跡は跡形もなかった。
「これ……」
葵琉がポケットから取り出した紙には苛々が募ってつい出来心で書いてしまった落書き。
「風紀室に行こうとしたら生指部長に捕まって……認めるかって聞かれて……違うって言ったら、じゃあ沢井が嘘を書いたのかって……」
丸っきり俺の所為だ。弁解のしようもない。
「痛いのはいやだけど、シロが嘘つき呼ばわりされるのはもっと嫌だ」
何て事を……。
後悔と申し訳なさで言葉も出てこない。
「ごめん、シロ。俺、シロがこんなに怒ってるなんて知らなくて……シロ、いつも優しいしいつも笑ってるから怒ってないと思ってた……」
違う。
責められるべきは葵琉ではなくこの俺だ。
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