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翡翠と白鷺-8
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手が痛いのだろう、うまく食べられない葵琉を見てお袋は溜め息を吐いて首を振った。
兄貴の分のトンカツを菜箸で器用に裏返してからテーブルを振り向く。
「手首捻っちゃったのね。志朗、貴方が食べさせてあげなさい」
元凶は自分なので反論のしようもなく燕の子の口にトンカツを運んでいるとお袋がさらにとんでもない事を言い出した。
「お風呂も貴方が一緒に洗ってあげなさいね」
「え……」
「え……」
思わず葵琉と顔を見合わせてしまったが、そんな俺たちの様子を顧みる事もなくお袋は言葉を重ねる。
「当たり前でしょう。可哀想に」
「シロ……から……」
「何?」
「恥ずかしいからいい」
バレーボールの猛攻から死守した頬をほんのりと紅く染めて俯く葵琉に返事をしたのはお袋だった。
「気にしなくていいのよ。沢井流は兄弟子の背中を流すのが昔からの習わしなんだから。怪我がよくなるまで面倒見ておやりなさい」
お袋には葵琉の怪我の原因が俺だとは話していないが知られたら怪我が完全に治るまで家で預かると言い出しかねない。
本来なら葵琉の家を訪れてご両親に頭を下げなければならないところだが、葵琉がそれなら2~3日泊めてほしいというからそうする事にした。
「来週から旅行だから心配かけたくないし」
葵琉の家は小さな洋菓子店を営んでいて、実地研修という名の旅行によく夫婦で出掛けるらしい。
何とも気まずい食事が済んで、風呂に入れようと葵琉の服を脱がせた途端、全身に散らばる痣の数々に絶句した。
そりゃあ生指の『指導』で負傷が腕だけで済むとは思っていないがこれは酷すぎる。
「こんなになるまで……痛かっただろ」
「あんまり……見ないで」
「何で」
「俺の体、痣だらけで醜いから」
「醜いなんてそんな悲しいこと言うな。お前が今日最後まで頑張った証だろ? 俺たち沢井流の人間なんか稽古で毎日毎日痣だらけなんだぞ」
「シロ……」
いつもの覇気はどこへやら、俯いてしょぼくれているから調子が狂う。
「ほら、風呂入るぞ」
湿っぽい空気を振り払うべく葵琉を浴室へ追い立てた。
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