アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
恋路の扉-1
-
テストの成績と連動して葵琉の髪色は黒くなったり茶色くなったりを繰り返したが、生指に取られる事はなく無事2年生に進級した。
俺も学年がひとつ上がって最終学年となったある春の日、悠夜兄さんから珍しく稽古を付けてもらっていた。
俺の弟弟子にあたる虎太郎も一緒だ。
虎太郎は今年沢井流学園に入学して、去年鞘が就いていた風紀副長の職を引き継いだ。
「何だ~志朗。その拳は」
新しく教わった型を見てもらっていたが、練習に身が入っていないのは自分でもわかっていた。
指導の鬼である兄弟子がそれを見逃す筈はなかった。
「やる気がないなら」
「すみません」
「終わりだ、終わり」
兄さんはさっさと帯を解くと道着の上衣を脱ぎ捨てた。
結んで上げていた髪の毛も解いてしまったから休憩ではなく今日はもうお開きのようだ。
沢井流では昔から清潔感のある短髪が推奨されている。
俺も虎太郎もずっと疑問を持つ事なく短髪をキープしてきた。
強制とも読み替えられる「推奨」だけど、悠夜兄さんが力を持つようになって事情は変わった。
豊かな茶色い髪を肩まで伸ばしている悠夜兄さんのように、有段者になるとある程度の自由は認められるようになった。
しかし、練習が始まったらきっちり結んで固定しなければならない。
それには伝統派の「当てない」空手といえど他の人と至近距離で接するので、仲間に迷惑が掛からないようにとの配慮もあった。
「水」
「はい」
差し出された手にペットボトルを握らせると兄さんは一気にゴクゴクと飲み干した。
「一体どうしたよ、お前」
空のペットボトルでお尻をポンと叩かれる。
確かに今日の俺には集中力が欠けていた。
せっかくの貴重な練習時間を無駄にしてしまった非礼を兄さんに詫びた。
「志朗、ちょっと付き合え。虎太郎も今日は終わっていいぞ~」
一心不乱に型の反復練習をしていた虎太郎は「はいっ!」と威勢良く返事をすると「ありがとうございました!」と俺たちに頭を下げた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
25 / 70