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恋路の扉-4
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悠夜兄さんが「会わせろ」というのは「好きな相手」の筈なのに、どうしても葵琉の顔しか出てこない。
「どうした? 俺には言えないような相手かぁ?」
ニヤニヤし出した悠夜兄さんは「子持ちか? 熟女か?」と次々に勝手な事を言い出す。
もうこのまま、子持ちの熟女に横恋慕している事にしようかと思った時、またしても核心を突く発言が繰り出された。
「まさかお前、俺の知ってる人間じゃないだろうな?」
「……」
そんなことを言われて葵琉の顔を悠夜兄さんが知っているか真面目に考え出した俺もいけない。
黙っているということは図星かぁなんて言った悠夜兄さんのニヤニヤが激しくなる。
「誰だぁ? 沢井流の中に居るのか? それとも三味線教室か」
兄さんは沢井流の稽古に来る女子の名前を片っ端から挙げていくがそのまま反対の耳へと抜けてゆく。
葵琉と悠夜兄さんの接点か……。
沢井流の道場生は髪を切りに行くのに、悠夜兄さんの働いている店を利用することが多い。
沢井流学園のすぐ裏手にあるその店は、沢井流の道場生と沢井流学園の生徒のためにあると言っても過言ではない。
選手登録証を見せると割引になるのもあるし、俺や虎太郎のような内弟子はツケも効く。
沢井流学園の学生証でも少々安くなるので鞘も葵琉もよく行っていると言っていた。
――知ってるかもしれないな。
葵琉の柔らかな髪に指を差し込む悠夜兄さんの姿を思い浮かべると、胸がチクンとした。
「!」
胸の痛みが甦らせるのはあの春の日の記憶。
葵琉を泊めたあの夜、付き出された唇との距離がゼロになった瞬間。
ほんの一瞬だけ触れあった場所は冷たかったのか温かかったのか。
それが今、急にどうしても確かめたくなった。
い草の香りと共に脳裏に甦るあの空間が、どうしようもなく恋しくなった。
「キスをしたい相手ならいます」
それが俺の出した結論だった。
唇を合わせたい。
夢の中に居るような心地がしたあの日。
その夢の続きをもう一度見たいんだ。
「そうか。で、誰なんだ?」
「後輩……です」
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