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恋路の扉-5
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悠夜兄さんも生粋の沢井流学園育ちだから後輩には男子しかいないことは百も承知だ。
だからどんな反応が返って来ても対応できるように身構えていた。
だけど、兄さんは目を瞑って黙りこんでしまった。
やっぱり言うんじゃなかった、こんな変な事。
俺の後悔が全身を2周3周した頃、悠夜兄さんは目を開いた。
「キスしたい相手……か」
それは優しい声だった。
稽古中は厳格な兄弟子だし、髪を切って貰っている時やプライベートな時間は逆に剽軽な人なのだ。
そんな兄さんから珍しく真面目で穏やかな一言が飛び出して、それは何処にもつっかえる事なく俺の心の深部まで入ってきた。
「朴念仁のお前が恋をする日が来るとはな」
胡座を掻いた足首を手で持ってグルングルン回しながら悠夜兄さんは天井を見上げた。
「告白するなら、さっさとしちまえよ。じゃないと誰かに取られて後悔するぜ」
「はい」
サウナの熱い空気は俺の湿った心をもパリッと乾かしてくれたようだ。
この感情の正体がわかった事で胸に引っ掛かっていたモヤモヤが少し溶けてなくなった。
だけど、これから葵琉にどんな顔して会えばいいのかわからない。
「なあ~写真ないの、写真」
「あ……りませんよ」
いつもの口調に戻った悠夜兄さんは胡座を掻いた体勢から器用に勢いよく立ち上がった。
「よし! 岩盤浴行くか」
水風呂で火照った身体を冷まして、ロッカールームへ向かうと岩盤浴用のガウンを羽織った。
俺には選択の余地は端からないので右にならえだ。
「スマホ持ってけよ」
「……はい」
ロッカーを閉めようとしたところで兄さんに止められた。
何のためにスマホを持たされたかは明白だ。
自販機コーナーで牛乳を2本買ってくれて、休憩用のソファーに腰を落ち着けたところで恐れていた質問が来た。
「で、写真は?」
「……」
「ないなら別にいいぞ。本人をここに連れて来させるだけだから」
恐るべき沢井流のヒエラルキー。
葵琉を悠夜兄さんに会わせると何を吹き込まれるかわからないので素直に写真を見せた方が得策だ。
「ふーん」
風紀室で一緒に撮った写真を見せると兄さんはニヤリと笑った。
「俺この顔知ってるわ」
案の定、悠夜兄さんの職場で何度か見たことがあると言う。
「さっさと告っちまえよ。じゃないと俺がいただくぜ」
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