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恋路の扉-8
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今にも泣き出しそうな顔で唇をキユッと結んだ葵琉の問いの真意が掴めなくて、どう答えるのが正解なのかわからない。
「虎太郎の事好き?」
好きか嫌いかと言われたら勿論好きだ。あんな性格のいい男を嫌いだと言うやつはいないだろう。
「好き……だよ?」
俺の好きな真っ黒な瞳に涙がみるみる浮かび上がったと思うと、手に持っていたマンガの単行本が飛んできた。
「シロのバカ!!」
お腹の辺り目掛けて投げられた本を受け止めて机の上に置いた。
「一体どうしたんだ?」
泣いたり怒ったり、虎太郎と何があったんだ。
「虎太郎がどうしたんだ?」
「虎太郎じゃない!!」
……俺が……好きなのに。
そう聞こえたのは空耳だろうか。
「なぁ、落ち着け」
瞳に溜まっていたた涙がぼろぼろと零れ落ちるのも時間の問題だった。
葵琉の隣に席を移すと、嗜みだからと持たされているハンカチを取り出して手に握らせてやった。
葵琉が流すその涙には見覚えがありすぎた。
『悔し涙』
沢井流の道場で生徒が流す涙。
――型の演武で、自分の思うような演技が出来なかったとき。
――組手の試合で相手に一歩及ばなかったとき。
――昇級試験の板割りが一発で決められなかったとき。
そんな道場生の悔しさを代弁してきた涙を葵琉はいま流している。
何が悔しいのか俺には見当もつかないから月並みな励まし方しか出来ない。
試合会場や昇級試験の場でずっと後輩にそうしてきたように、葵琉の頭に手を載せた。
「また」
次があるから。
そう、うっかり言い掛けて道場生を励ましていたんじゃない事を思い出す。
暫く撫でていると落ち着いたのか、ハンカチを返された。
「シロのバカ……」
今度のバカはさっきと違って緩やかに滑り出してくるようなバカだった。
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