アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
俺のストレス解消法-10
-
放課後の静かな風紀室で虎太郎が書類に判を押す音に、合いの手を入れるように衣擦れの音が響く。
目の前でイチャイチャっぷりを見せつけられる虎太郎にいい迷惑だというのはわかっている。
特に今日は葵琉を引き留めて貰っていた恩があるから尚更だ。
だけど。
俺にも我が儘を言わせて欲しい時ぐらいあるんだ。
本当に申し訳ないけど今だけは「沢井流のヒエラルキー」を俺も利用させて貰おう。
状況に応じて机や椅子と化すのも付け人の役目だ。
悠夜兄さんはいつもそう言っている。
今まで前髪に覆われていて見えなかった額に唇をつけると、整髪料の香りが鼻一杯に広がった。
くるっとした瞳が見開かれて、宝石のような黒目が揺れる。
ドクン。
心臓が大きく音を立てて、反射的に机の方へと目を逸らす。
よく熟したトマトのように真っ赤な顔をした虎太郎は、ハンコ捺しに没頭する振りを続けていたが、バッチリ目が合ってしまった。
「あ、間違えた」なんて独り言も丸聞こえで動揺は隠しきれないけど、今日だけは我慢してほしい。
ごめん、虎太郎。
何かを切実に訴えるような虎太郎の視線を振り切って葵琉に視線を戻すと、いつものように頭を撫でようと手を伸ばした。
が、綺麗にセットされている毛先に触れると崩してしまいそうでそっと引っこめた。
鼈甲飴細工のような繊細な髪型は何分掛けて作って来たのだろうか。
お洒落なんていうワードには生まれてこの方縁のなかった俺には到底真似できない世界だ。
頭を撫でる代わりに顕になった耳を縁取るように生え際をそっと指でなぞった。
一瞬にして血と熱が集まった葵琉の耳たぶが紅く染まる。
ジッと顔を見つめると葵琉は哀しそうに視線を下げてしまった。
「葵琉?」
俯いた顔を上げさせるとその目には涙が滲んでいた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
47 / 70