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上京
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「東京へ行きます。」
強豪チームのある大学で俺は高校から始めたバトミントンを続けて居た。
入団当初は高校の時と余り変化はないだろうと思っていたが大学生の圧倒的なスピードとパワーは技術を上回る。
と言う現実を目の当たりにして俺はなかなか好成績、結果を残せないまま卒業を迎えた。
プロの夢は諦めきれなかったけれど保険としてスポーツトレーナーの仕事が出来る様にAT(日本体育協会認定の、アスレティックトレーナーと言う民間資格)だけではなく医療系国家資格を大学で取得した。
俺は研修でお世話になったリハビリセンターで働く先生に就職先を知らせに病院に来ていた。
「そうか寂しくなるな、如月くんが居なくなると。てっきりウチの病院に来てくれると思ってたからね。」
「ありがとうございます先生やセンターの皆さんには本当にお世話になりました。」
「東京には知り合いが?」
「はい高校の時一緒に頑張ってた仲間が居て…実はそいつが俺の就職先を紹介してくれたんです。」
「ほう。そのお友達は作業療法士なのかな?」
「いえ、一応プロのバトミントン選手なんです。俺も目指してるんですけど今の実力じゃまだ…大学での結果は伸びなかったんですが後半では少し結果を残せたので育成選手って事でその企業に拾ってもらいました。」
「ではスポーツトレーナーでは、ないんだ。」
「いえ、それが…」
俺は頭をかきながら、
「トレーナーとしての国家資格とバトミントンの実力を足して、やっとって感じで。」
「うんうん。」
「まずはトレーナーでチームに加わります。なのでここで教わった事、目一杯生かして行きます!」
先生は俺に封筒を渡して来た。祝儀袋だった。
「卒業祝いと就職祝いが一緒になってしまったけど、如月君おめでとう。君は立派です。」
「そんなっ。受け取れないです!お世話になった事ばかりで。」
俺は祝儀袋を受け取らずに一歩下がった。
「まあまあ。向こうに行ったら色々物入りだろう、これは僕だけでは無くリハビリセンターのみんなからだから。」
「えっ?」
「みんな君を誇りに思っているんだろうね、頑張って。」
「あ、ありがとうございます!」
俺はセンターを後にすると母に電話をした。
「あ、母さん?俺。今リハビリセンターで挨拶済ませてきた。お祝い貰っちゃったんだけど何かお返しして置いてくれる?俺このまま新幹線乗るから。」
そう…そして今日俺は東京へ行く。
母にご飯きちんと食べるのよだとか、社会人なんだから寝坊だけは絶対ダメよとか小言を言われ、はいはいと相槌をうつ。
母と弟二人を残して家を出るのには少し気が引けたけれど、今回の話が出た時一番に賛成してくれたのは母だった。小さかった弟の海斗も小学校高学年だ。
バトミントンでは挫折だらけの大学四年間。勝ち進む事が出来なかったので全国に届かず、俺は大会先の霜月にも会えず仕舞いだった。たまに連絡を取り合っては居たものの…
「会うの三年ぶりかぁ。」
俺は母校のバド部の合宿に毎年顔を出して居た。
三年前の合宿の時、霜月も一度帰省して部に顔を出してくれたのだがそれ以来は会っていない。
俺は気が進まず大会のテレビ中継も見れずにいた。
三年前はそうでも無かったけど、東京へ出てあいつ変わったかな。
「おーおーいっ!如月ー!」
松本先輩が黒いハイエースから降りて来た。
「松本先輩車買ったんすか!?デケーし…かっこいー!」
「だろ〜」
松本先輩は実家のお店を継ぎ今はイタリア料理のシェフだ。地元の、バトミントンサークルにも入っていて社会人チームで活動している。
「駅まで乗せてくぞー。」
「まじっすか!!」
「お前高校の時から何も変わんねーな。」
「んな事ねーっす!背だって1センチ伸びたし…」
車に寄ると助手席には菅キャプテンが乗って居た。
「あ!菅キャプだ!おつかれっす。」
「如月お疲れさま。その…いまだにキャプテンはそろそろ辞めてもらえるかな。 あ、俺もだけど」
そう言って車から降りて後部座席のドアを開けると…
「ちわーっす!」
南原先輩、池くん、睦月先輩が居た。
「みんなも一緒、いーかな?」
はにかんで菅キャプテンが言う。
「もちろんっす!」
めちゃ嬉しい。
「お前荷物これだけ?」
「うす。他は引っ越しの荷物と一緒に郵送したんで。」
俺は後部座席に乗り込む。
「寂しくなるなー。お前ムードメーカーだから。」
「睦月先輩、また合宿には来ますから。」
「おう!頼むぞ。」
「如月、新幹線二時だったよな?」
「うす、助かります。にしても車広いっすねー。なんか運転姿が新鮮っす」
「だろー俺も惚れ直しちゃった。」
「スガ〜〜のろけかょー。」
松本先輩と菅キャプテンは彼氏×彼氏の仲だ。
今ではここにいるみんなが知っている。
俺は高校在学中に二人の仲睦まじい姿を目撃した事もあってか打ち明けられた時には全く同様しなかった。
「霜月ん所でルームシェアするんだって?お前。」
「そうなんすょ。正直悩みましたけどね、都内家賃高くって。下見に行く時間も金も無かったし、甘えさせて貰いました。それに霜月もそれの方が助かるって。」
「けどお前ら彼女とか、出来たら気まずくない?すでに霜月には彼女いるかもだし。」
うっ、考えて無かった。
「だよな、睦月もそう思った?俺もそう思ってたんだよ」
池君がそう続く。
「僕なら相手が彼女連れて帰宅したら用事があるからって多分部屋に居られなくなるな。気を使ってビジネスホテルとかで過ごすかも。」
「あー、南原ならそうしそうだな。」
「喘ぎ声とか、聞こえても気まずいしなー!」
「確かに!」
「あれぇ?なんだなんだ如月。顔真っ赤にして。」
し、仕方ないだろっ。そんな喘ぎ声とかリアルな話されて…
「もしかして暁ちゃんは童貞かな?」
聞くなそんな事〜っ!キスだってまだ…
「ん、んなわけ無いじゃないっすか!」
全くの嘘をつく。
こんな事で見栄はってどーすんだ俺っ!
「如月は高校大学とバトミントンと勉強に追われてたからなー。まともな恋愛してないんじゃない?」
南原先輩が下ネタから遠ざけてくれたのでホッとしたのもつかの間、またしても俺に話しをふってくる。
「確かに。お前何気モテてたのにな。」
え?睦月先輩の言葉に耳を疑う。
俺モテた事なんか無いし…告白とかもされた事ないけど。
う〜〜ん…と、唸っていると更に続けて睦月先輩が、
「そうそうあれいつだっけ。確か如月が進路なかなか決まらない時だったよな。」
「あ、それ言っちゃうの?霜月に口止めされて無かった?」
池君が睦月先輩をどつく。何?霜月に?すげー気になる。
「もー流石にいーだろ。」
「だなっ」池君が同意した所で睦月先輩が話だした。
「お前二年まで一緒だった七尾さん覚えてる?」
「もちろんす。」
予想外登場人物に何の話しだったか解らなくなる。
「あの子お前の事ずっと好きだったみたいだぜ。」
「え!?え!?え〜〜っ!?」
マジか。マジか!七尾さんが!?
「全然そんな素振り無かったのに。」
「お前鈍感なんだよ。」
「ゔっ。そうっすか?」
「思い切って告白しようとしてたみたいだけど相談された霜月が今は、大事な時だからインターハイ終わってからにして欲しいって言ったって。」
「…」
「そしたら結局、七尾さん言えず仕舞いでそのまま卒業。霜月責任感じてたよな。」
そんな事があったなんて。
「駅着くぞー。」
「え!?もうか。」
残念そうに睦月先輩が呟く。
車から降りて荷物を受け取った。
「たまには帰って来いよ。霜月みたいに忙しくなる訳じゃないんだろ?」
「うすっ。」
「適度に頑張れ。お前やりすぎちゃう所あるから。」
「うす。」
「いつでも帰ってこいよ。」
「うす。」
「如月家には俺今までどーりちょいちょい顔出すけど、ちゃんと連絡こまめにしろよ。あれでお前のかーちゃん結構心配性なんだから。」
ご近所でも有る池君に感謝する。
「そうします。」
「なんだなんだぁ最後の、別れでもあるまいし。」
大きく背伸びしながら睦月先輩が言うと皆が、笑った。
「行ってきます。」
「おうっ!」
駅へと歩きだし、改札の所で振り返る。
みんなまだ来た所に立っている。俺が大きく手を振るとみんなも返してくれた。
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