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4 - 涼side
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「…忍ぶれど 色に出でにけり 我が恋は ものや思ふと 人の問ふまで」
「…え?」
「これも、僕の好きな歌なんだ」
圭斗が僕の膝に埋めていた顔を上げる。
古典が苦手な圭斗でも、覚えているだろうか。夕飯の準備中に話したこの歌を。
「…初めては僕も痛くて仕方なかったし、圭斗が気にすることはないよ。一瞬だったとしても、圭斗が泣いてまで僕を受け入れてくれただけで十分。」
…もしかすると、明日また誰かに尋ねられてしまうかもしれない。
それくらい、嬉しかった。
圭斗はきっと、僕を満足させてやれなかったとか思ってる。そういう顔をしてる。
…そんなことは無いからね、圭斗。
「圭斗が嫌じゃなければ、ゆっくり慣れてくれればいいし。二度と嫌って思うなら、圭斗が僕を抱いて?」
頭を撫でると、圭斗は目を伏せた。
けれど、表情は強張ったまま。
「…好きだよ、圭斗。…愛してる」
「…なんで、ですか?」
「え?」
「涼さん、なんで俺のこと好きになったんですか…?」
圭斗がか細い声で言う。
あぁ、そっか。圭斗も、僕と一緒で不安なんだ。
初めてのことだから。
「…最初のきっかけは、古典苦手な癖にすっごく一生懸命補習受けてくれたから」
その頃は、生徒として気になる…気にかけてやりたい存在だったんだけどね。
「…それから、文化祭や体育祭の準備なんかも大真面目にやる真っ直ぐで純粋な圭斗を見て、最近の高校生にしては珍しいタイプだなって思ってた」
「…そう、ですか?」
「うん。で…1年生かな。体育祭で惜しくも負けちゃって、悔しくて泣いてる圭斗を実は見た」
「え、嘘」
あの日…
みんなが帰った教室で、窓際の席に座ってグラウンドを眺めながら泣いていた圭斗の姿は、今も覚えてる。
唇を噛み締めても流れてくる涙が、西日に照らされて輝いていた。
「あの瞬間だったかな、圭斗に惚れたのは」
「…それ、恥ずかしいやつです」
「そう?……それから圭斗を気にするようになって、圭斗も僕のこと好きだろうなって気付いた」
「だから、恥ずかしいです…!」
良かった。
圭斗から、不安げな声色と瞳が消えた。
「圭斗」
「…はい?」
「圭斗が大丈夫なら、今日泊まって良いからね」
「…はい、ありがとうございます」
圭斗は僕をどうして好きになってくれたのかな。
本当は少しだけ気になるけど…
聞くと絶対恥ずかしがるだろうし、何より圭斗は僕のことちゃんと好きでいてくれてるという事実が分かったから、いいや。
「…何でしたっけ?」
「え?」
「さっきの和歌。えっと…」
「忍ぶれど?」
「はい」
「忍ぶれど 色に出でにけり 我が恋は ものや思ふと 人の問ふまで」
圭斗の頭を撫でながら教えてやると、少しの間が空いてから呟いた。
「…俺も、そうだったってことですよね?」
「…ん?」
「俺、……涼さんに好きなのがバレてたってことは、俺もそうだったってこと…ですよね?」
「…そうだね」
僕の目を見つめながら少し照れて笑った圭斗が愛しくて、一度だけキスをした。
Fin.
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