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月曜ファミレス…3
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ファミレスでの打ち合わせ後は、一人で帰るわけにもいかずハルの家に泊まった。圭悟にメールを入れた時には午前三時を過ぎていた。今度は「了解」と素っ気ない二文字の返信があった。
殆どすれ違いの生活時間ではあるものの、誰かと共同生活を送るというのは少なからず規則正しい生活を強いられる。ハルの家に着く頃には幾度か欠伸が出るようになり、結希は自分が決まった時刻に寝て決まった時刻に目覚めるよう体内時計がセットされつつあることに驚いた。夜眠れると、昼起きている間は目が冴えている。昼にきちんと起きていると、夜は寝る時間になれば自然と眠くなる。そんな当たり前のサイクルに身体が馴れようとしているのが不思議だった。
「高校の同級生ってどんなヤツ?」
キングサイズのやたらと大きなベッドにハルと潜り込み、枕元のコンセントを借りて携帯電話を充電器に繋ぐ。間近に見るハルの顔は驚くほど小さい。手入れの行き届いた肌理細やかな皮膚など女性のようだった。
「つうかオマエ、高校ン時とか友だちいたのかよ」
「いないよ? 世話になってる同級生とは最近知り合ったみたいなもんだし」
部屋の明かりを消して、結希もハルも上を向いたまま話す。同じベッドに転がっても、実態は雑魚寝とさほど変わらない。
ハルは黙ったまま続きを促す。
「高校の時は生徒会長で、今はホスト」
「へーえ。随分派手な経歴だな」
「プラチナアークの間宮理世って知ってる?」
「ああ、ここ半年で急にのし上がってきた有名人」
「……有名なのか」
高校の時から目立つ存在なのは変わらないらしい。
隣でハルが息を吐く音がした。
「そろそろ気を付けたほうがいいかもな」
「え?」
「出る杭は、打たれる」
思えば結希は圭悟の仕事のことなど何も知らなかった。ハルや店のママですら間宮理世を知っているのに、近所で働いていながら噂一つ耳を傾けていない。
コンビニでの待ち合わせも、本当はかなり圭悟の負担になっているのかも知れない、と思い至る。閉店時間が同じだからと言って仕事の終了時間まで同じとは限らないのだ。今夜の結希がそうであったように。だが、結希の方が予定を変更することはあっても、圭悟が待ち合わせ時間を変えてくることは一度もなかった。
それでも、圭悟が足元を掬われるところは想像ができなかった。
高校時代から、何事もそつなくこなす印象しかない。
「プラチナアークじゃなかったら今頃とっくにナンバー1だろうな」
結希を安心させるためかハルはそう言うと、「今度紹介しろ」と付け足して背を向けた。
夕方からは予約が入っていた。
日の出ているうちに襲われることもないだろう、と着替えるために一人で圭悟の家に寄ることにした。不審な男は姿を見せない。ただの通りすがりだったのか、何かの牽制か。そろそろ七階の自宅に戻ろうかと悩みながらエレベーターの中で七階の表示ランプを見送った。
あまり長く世話になると一人に戻れなくなる。
「朝帰り」
玄関を開けると出掛ける準備の整った圭悟と出くわした。結希を見るなり鼻で嗤った。
「もう昼過ぎてるよ」
「じゃあ昼帰り。何、朝からもお盛んだったワケ?」
「昨日は同僚の家に泊まっただけ。メールしたでしょ」
「どうだか」
妙に突っかかってくる圭悟に結希は思わず眉を顰めた。昨夜、ハルに言われたことが引っかかった。反射的に語気が強くなりそうなのを溜息で逃す。
「仕事でもないのにそんな誰彼構わず寝たりしないよ」
自然と口調は呆れたようになる。更に言い募ろうとする圭悟が一瞬だけ口を開けて、すぐに閉じた。どこか傷付いた面持ちで視線を逸らす。
「悪い」
「いいけど」
もう、出て行った方がいいだろうか、と先ほどまで考えていたことがよぎる。だが玄関で立ち話する内容でもない。圭悟は出掛けるところだ。この時間なら同伴出勤だろう。
これから圭悟が向かう先の女のことを考えるとちくりと胸が痛んだ。
(もう本当に出て行った方がいい)
自分の感情も、今圭悟と交わされている会話も、とても健全とは言えない。
「今夜も待ち合わせなくていいから」
「連チャンで打ち合わせか?」
「泊まり。仕事だよ」
何か言いたそうな圭悟を無視して靴を脱ぐ。嘘がバレそうで、まともに顔を見ることは出来なかった。
「あ、そ」
短く圭悟が返し、すれ違う。
背後で扉の閉まる音がした。
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