アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
虚無感…3*
-
圭悟と二人して洗面台に並んで歯を磨き、それから二人で寝室に向かった。圭悟が持たせてくれたスポーツドリンクのペットボトルを枕元に置いて横になる。今度はあまり上手く寝付けなかったが、水分補給とうたた寝を繰り返すうちに吐き気は段々と収まっていった。隣では圭悟が、結希に背を向けて眠っていた。
普段は圭悟の寝顔を見ることが多い。結希が起きだす二時間程前にベッドへ入る圭悟は、大抵結希の方を向いて寝ている。それはきっと自分も寝顔を見られているのだと思わせ、とても気恥ずかしい。時には抱き込まれて寝ていることもあって、そちらの方が幾分か結希をマシな気持ちにさせた。今日、背中を向けているのは、結希が頻繁に身体を起こすせいだろう。少し寂しい思いで結希は圭悟の背中を眺め、微睡む。
昼前に食事をどうするか訊かれ、それを断った。空腹ではあるものの、食べたいものはなかった。圭悟は殆ど空になったペットボトルを交換し、買い物へと出掛けて行った。
病人でもないのに世話を焼かせるのが心苦しい。けれど、病人でもないのに構われたくて酷く落ち込む。せっかく一緒に過ごせる休日を、酒で台無しにしたのは結希自身だ。
夕方までたっぷり自堕落な生活をすると、今度は横になりすぎたせいで頭が重かった。空腹を訴える胃に負けてリビングの扉を開いた先、ソファの座面を背凭れ替わりに床へ座った圭悟が携帯電話を触っていた。
「お腹すいたけど何食べたいかわからない」
ため息混じりに言うと、ワンテンポ遅れて圭悟が傍らに携帯電話を置いて結希を見た。
「珍しいな」
「何が?」
「結希、小食のくせにいつも無理難題なメニューばっか言うから」
「そう?」
「ああ」
微かに圭悟が笑ってその場を立った。キッチンへ向かう姿を目で追いながら、結希はソファへ座る。圭悟の纏う雰囲気は柔らかい。それがなんだか申し訳ない気持ちにさせた。
「和食? 中華? イタリアンは……重いかな」
「うん」
どれも食べたい気がしない。
朝から何も食べていない上に、結構な量を戻してしまったせいで空腹なのも当然で、だが喉を通る気がしなかった。
「圭悟、こっち来て」
「なに」
やはり笑いながら圭悟は戻ってくる。ソファの隣を叩いて隣に座るよう促すと、圭悟はやれやれといった調子でそこに腰を下ろした。
「弱ってると甘えたくなんだろ」
「うん」
ピタリと身体をくっつけて凭れかかると、圭悟がそっと肩を抱き寄せた。そんな些細なことが結希を満たしていく。同時に申し訳ない気持ちも増大していく。
「最近よく呑んでるみたいだけど何かあったか?」
「……何も。何もない、なんか気が抜けてる」
「ああ……いろいろあったからだろ。五月病ってヤツ?」
「そうなのかな……。そうかも」
圭悟の言葉はストンと胸に落ちた。復帰祝いに訪れた人々との賑やかな時期が落ち着くと、途端に張り詰めていた糸が切れてセックス自体も味気ないものになった。セックスを売り物にしている結希にとってはスランプのような状態だ。
圭悟と暮らすようになった冬から約半年、本当にいろいろなことがあった。集約してしまえばそれは高校時代から続いていたひとつの出来事でもあった。
区切りがついた。
煩雑な手続きで呼び出されることはあるものの、長かった日々が終わったと感じるのに充分だった。
「……そっか、五月病だ」
結希はほっとしたように力を抜いて笑う。
原因が分かったところで虚無感は消えないだろう。それでも正体不明なものを相手にするよりずっと気がラクだ。圭悟は天才かもしれない、と結希は思う。
穏やかな日々が疎ましいわけではない。極度の緊張状態でないと張り合いがないなど、この先生きていくのに不自由すぎる。
母親は、どこでどんな人生を送っているのだろうか。湧き上がる興味はすぐに霧散した。もう、赤の他人だ。
「結希、何か食べておいた方がいい」
夕飯の時間だった。こうして結希が凭れ掛かっていては、圭悟が食事の支度に行けない。
結希は身体を預けたまま圭悟の手にそっと自らの手を重ねた。客が相手ならいくらでも誘えるのに、圭悟が相手だと急にどうすればいいのか分からなくなる。結局、仕事の時には無意識のうちに自分を装っているのだと気付かされる。誰のことも好きになってしまうなど笑い種だ。本当に好きなら、軽々しく好きだなどと言えやしない
すぐ隣にいる圭悟が身じろぎ、ぼんやり前を向いている結希の顔を上げさせた。もう頭はグラグラしなかった。何か言いかけた口はすぐに塞がれ、何も言わなくていいのだと悟った。
「先にこっち。食べるか?」
軽く触れただけの唇がすぐに離れて囁く。背中をぞくぞくと快感が走った。圭悟の言葉だけで身体の芯が熱を持ち、下肢から蕩けそうで息が上がる。
「何やらしー顔してんの」
圭悟が笑う。
結希は顔を顰めて、それでも圭悟の首へと両腕を回した。今度こそ深く口付けて、互いの舌を絡め合った。淫靡なリップノイズが更に結希を、二人を煽り立てる。二日酔いの身体には酸欠が堪えてあっという間に荒く呼吸が乱れる。結希がソファの上で横になりたがるのと、圭悟がのしかかるのは殆ど同時で、どちらからともなくソファの上で縺れ合う体勢になった。
「……んっ、んン……ぁ……っ」
キスだけでこんなにも感じる。咥内をまさぐる舌の動きに翻弄され、まるで身体の裡側に直接触れられているような錯覚に陥る。口の中もまた、粘膜で出来ている。
圭悟の手が衣服の上からでも分かるほど屹立した結希の自身を撫でるので、結希は慌てて身を捩り、その手を掴んで離させた。
「どうした?」
「だって……っ」
こうして、圭悟が男の身体である自分へ触れてくることに未だ慣れない。
「……そんなところっ」
「まだ言う? しつこい」
圭悟には結希が気にしていることなどお見通しで、構わず前を暴いて生身のそれを掴む。結希は喉を仰け反らせて声を押し殺した。
考えを読まれているわけではない。セックスのたびに同じ押し問答をしているだけだ。
鼻から抜ける息はもうアルコールの匂いを孕んではいなかったが、いつもより幾分か結希の抵抗は少ない。それに気を良くして圭悟がいっそう結希のものを扱く。そこはすぐに先走りでぐっしょりと濡れ、ぬちゃぬちゃと卑猥な音を立て始めた。
これではあっという間に達してしまう。
「そんなにコレが嫌ならオンナみたいに扱えば納得する? ああ、こんな濡れてイヤラシイ身体」
「……は、あ、あ……っ。そういう、意味じゃ……っ」
「まあ俺はお前が男だろうと女だろうとどっちでもいいけどね。――結希が、結希なら」
「だめっ、イくっ」
圭悟の首に回した腕でしがみ付き、結希は呆気なく果てた。そのぬめりを擦り付けるように圭悟は局部を撫で回す。圭悟の身体の下で結希の身体は面白いぐらい跳ねた。
息が収まらないままシャツの裾から手を入れられ、圭悟の手が素肌を確かめていく。腕の力が緩んだところで圭悟がするりと両腕から抜け、シャツをたくし上げた先で尖る乳首に舌を這わせる。
「はっ、ああぁっ、や……っ!」
あられなく声を上げ、結希は身を捩る。射精してなお、火のついた身体が熱い。精液を纏った指が後孔へと埋められていく快感に身体が強張る。待ち望んでいた刺激だった。
ローションを使うわけでもない挿入は少し痛みを伴うものの、慣れた身体は指一本ぐらいなら易々と受け入れた。圭悟の、あの綺麗な細い指が、排泄器官を探る背徳感は図り知れない。それでももう結希に抗う術はなく、裡側から粘膜に触れられる悦びに震える。
「あっ、ぅあ……っ」
「もっと?」
足りない。
圭悟の問い掛けに結希は恐る恐る頷いた。こんな汚いところを触らせて、それなのに足りないと強請る。
数回身体を重ねただけで圭悟は的確に結希の感じる場所を覚え、そこを強く揺さぶる。強制的に追い上げられるような快感で眦は涙で滲み、嬌声は高く上擦っていく。
圭悟が唇へとキスを落とし、結希は縋るように目を開けた。間近で顔を覗き込む圭悟と目が合った。ずっと見られていた。
「こうやって気持ち良さそうにしてるお前のエロい顔がたまらない」
今度は額に口付けて、「ローション取ってくる」と言いながら圭悟があっさりと指を引き抜いた。
一緒について行って続きは寝室でする方が後々楽だろうと思うのに、二日酔いと火照りで身体が動かない。刺激を失った後孔がはしたなく収縮を繰り返し、結希は自分の身体が恨めしくなる。
そして、圭悟の言うエロい顔とやらも、結希には圭悟一人に独占させてやれないのだった。
育ちがいいくせに圭悟は何故かソファに座らずいつも床に直接座る。結希は急にそんなことに気が付いて疑問に思う。結希はソファのあるような家に住んでいたことがあまりない。にも関わらず結希は必ずソファに座るから、意外とそんなものなのかとその疑問はすぐに頭の中から消え去った。
床に座る圭悟の上に跨って向かい合う。繋がったまま動かずにただ何度も口付ける。身体を起こしているのはつらいのに、正常位では自分ばかりが一方的に快楽を与えられているような申し訳なさがあるから、結希は自分から圭悟のものを体内に導き腰を降ろした。
腰を支える圭悟の手が熱い。結合部も、口の中も、何もかもが熱くて、結希は必死にその熱を貪る。空腹感が、虚無感が、圭悟によって満たされていく。
「……動いていいか?」
もう少しこのままで、と強請るために唇を塞ぐと、口付けたまま圭悟がゆるくナカを突き上げるので、結希はくぐもった声を漏らした。
「んっ、は――……っ、あっ、ぁ」
一度刺激を与えられるともうなし崩しに快感を求める羽目になる。下肢が力んで圭悟を締め付け、それでも結希は自ら腰を揺らし始めた。
ひどく満たされた気になる。
心も、体も、圭悟でいっぱいに満たされ、それは近頃の虚空を埋め尽くしていく。
――ああ、なんだ。
刺激が足りないのではなく、ましてや五月病でもなく、圭悟そのものが足りない。
誰彼構わず肌を重ねても、埋まらない。埋まるわけがない、飢餓感。
「気持ち悪く、ないか?」
吐息交じりに圭悟が問い掛けるから、結希は小さく首を横に振った。
「……気持ち、い……ぁっ」
上がる声はそれほど切羽詰まったものではない。まだ答える余裕がある。労わりながら圭悟が身体を揺さぶり、結希は心地良い揺れに任せてじっくりと味わう。
誰が自分を抱いているのか、誰のものを咥え込んでいるのか、結希ははっきりと意識する。溺れて訳が分からなくなる訳ではないのにとても気持ちいい。
溢れそうな想いに結希は向かい合う圭悟の身体を強く抱き締めた。
「……なに、どうした?」
耳元で圭悟が笑い声を滲ませて囁く。そのまま弾んだ息で結希の耳朶を甘く喰む。背筋を駆け上がる何かに結希は震える息を吐いた。
好きだとはどうしても言えなくて、悲しい訳ではないのに涙が込み上げてくる。圭悟から結希の顔は見えない。なんでもない、と首を振って答える。幸せで、満たされて、溢れたものが涙になってこぼれる。伝えたくて、好きだと唇を動かそうとしたら別のものまで溢れそうになった。
ただ緩やかに揺さぶられているだけなのに、圭悟と繋がった場所がどくどくと脈打つ。それは互いの身体に挟まれた結希の自身にも伝わり、決壊しそうな快感で下肢が震えた。
「ああぁ……、だめっ、……ッぅあ」
「だめじゃない。……結希のココ、凄え絡みついてくんの。……わかるか?」
「や……っだめ……、だめだ、また……!」
「うん、イっていい。結希」
「だって、まだっ、――圭悟が」
結希は切れ切れに息を吸い込みながら言う。身体の中も外も熱くて、感じたこともないような快感が襲ってくる。もう殆どしがみ付く格好になった結希の背を、圭悟があやすように撫でた。
「……わかったよ」
仕方ない、とでも言うように圭悟は笑う。声からは幾分か余裕が失われていた。そのことに結希は気付かない。
それまでの緩い抽送から一転して律動は激しさを増す。もうとっくに限界がきていた結希は言葉にならない声を上げてあっという間に二度目へと追い上げられる。
圭悟が短く息を吐いた。突き上げる動きは止まらない。
「やぁああっ、あ、ああぁアア――……っ」
それは圭悟が中で果てるまで続いた。結希の身体は長い長い絶頂に飛び、精ではない何かを噴いて二人の腹部を濡らした。
腰が抜けてしまったようにがくがくと震える結希の身体を、圭悟が強く抱き締めて支える。耳元で繰り返される圭悟の呼吸は熱く、荒い。
「……っ、は……結希……?」
「ん……っ」
ほんの少し、互いの身体が離れて、様子を伺われていることに気付いた。朦朧とした意識のまま結希は瞼を持ち上げる。やはりそこには至近距離で覗き込む圭悟の切れ長の瞳があった。
身体の震えは収まらない。ずっと快感が続いていた。
震える唇で結希は口付けを強請る。
望む通りに圭悟の唇が重なり、二人は乱れた息のまま互いを貪り合った。体内をいっぱいに埋められ、満たされ、溢れるほど注がれてなお求め続ける。
夕飯を食べ損ねて更に睦み合った後、翌日の仕事に支障が出るからと離れていく圭悟の気遣いが酷く胸に痛かった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
87 / 123