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「修弥様。朝です。お目覚めください」
「うー......」
毎朝お馴染みの声と、シャッという音とともに射す光で目を覚ます。
相変わらず無表情な鳴上は、今日も淡々としていた。
「本日は、賢斗様の大事なお見合いの日でございます。我々も準備に取り掛からなければなりません」
昨日はろくに寝れず、寝不足な俺は、鳴上に助けられながら着替えていく。
「......それ、俺も立ち会うの?」
「もちろんです。修弥様は賢斗様の専属執事なのですから」
「専属執事、ねぇ.....」
何をもって専属というのか。
例えば、鳴上のように、朝から晩まで俺の世話をして、こんなところにまで付いて来るような執事なら、文句なく専属と言えるかもしれない。鳴上からは俺に尽くそうという誠意が感じられる。
しかし、俺はどうだ?
賢斗は基本なんでも自分で出来る。俺がやってやることといえば、掃除、掃除、それから掃除。最近は身の回りの世話もしていたが、それはあいつが骨折をしたからだ。俺はあいつに尽くしたいなんて、微塵も思っていない。
「なあ.....鳴上」
「はい。なんでしょう?」
「こんなことして意味あんのかな」
俺の性格を治すためにここへ連れてこられたわけだけど、果たして本当に効果はあるのだろうか。
もともと良くなかったにもかかわらず、賢斗のせいで更に曲がったと言ってもいいだろうこの性格を、賢斗がいるこの皇家で治せるはずもない。昨日のことといい、むしろ悪くなってる気がする。
鳴上は俺の問いに、俺のネクタイを手際良く締めながら答えた。
「そうですね。あなた様の性格はなかなか難儀ですから」
「う......直球だな」
「......ですが、少しお優しくなられました」
そう言って、いつも無表情な鳴上が微笑を浮かべる。そのことにも驚いたけれど、一番驚いたのは鳴上が言った言葉に対してだった。
「優しく.....?俺が?」
「はい。使用人を見る目が柔らかくなりました。大声をあげる回数も減ったと思われます。今も私のことをお叱りになりませんでした」
「.......」
確かに前の俺なら、俺の性格を難儀だと言った鳴上に激怒していたと思う。
黙り込む俺に、鳴上はさらに言葉を続けた。
「新しいご友人も出来たようですし」
友人とは瑞希のことだろう。俺に庶民の友人が出来るなんて、思ってもいなかった。それを思えば、確かに俺は変われてるのかもしれない。
「......俺、ちゃんと一ノ瀬の家に戻れる?」
こんな俺を家の者は快く迎えてくれるのだろうか。
不安な気持ちを隠すように、鳴上が結んでくれたネクタイをギュッと握る。その俺の手に鳴上の手が重なった。
「ご心配なさらなくても、皆、修弥様を慕っております」
「そんなこと......」
「旦那様と奥様がお忙しくて、修弥様が寂しい思いをしてらしたことも、理解しております。修弥様の根はお優しいこと、皆、存じておりますよ。そうでなければ、何年もこの仕事を続けていけません」
「......っ」
俺は思っているより大事にされているのかもしれないと、鳴上の手のぬくもりを感じて思う。
何度もこの手を払ったことを、今更ながら後悔した。
「.......鳴上、ありがとう」
たまには素直になるのもいいだろうと鳴上に感謝を伝えれば、鳴上は「もったいなきお言葉」と頭を下げた。
そして、鳴上の手が俺の手から傍に置いてあった眼鏡へと移る。
「賢斗様にも素直な気持ちをお伝えになったらいいと思いますよ。周りの目なんか気にすることありません。修弥様は修弥様です。胸をお張りください」
「お、お前、どこまで知って......」
「私は修弥様のことなら、どんなことでも存じております」
「専属執事ですから」と言って、再びらしくなく微笑んだ鳴上の顔が、度が入っていないレンズ越しに見えた。
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